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学生による教員紹介

生物学類の先生はどのような研究をしているのでしょう?
学生たちがインタビューに行きました!

目に見えない神経系疾患のメカニズムが知りたい

鶴田文憲 助教
 研究者になるためには、何が必要でしょうか?子どもの頃から何かに熱中するのが好きだった?何かに関して特別詳しかった?それとも将来必ず叶えたい夢や理想かある?大学に入学してみると、私からみてそんな「特別」をもっている先輩や同級生がたくさんいました。それに比べて、私は、自分には「特別」なところがなく、将来大学で研究したいテーマを決めて、それをとことん追求していくことなんてできるのかと考えていました。そこで、筑波大学生物学類の鶴田文憲助教に、ご研究や、ご経歴を取材しました。鶴田先生は、脳内において「RNAスプライシングやタンパク質分解の異常が、神経系や個々の神経細胞にどういった影響を及ぼすのか」というメカニズムを主に研究されています。

RNAスプライシングと神経変性疾患
 脳内の全ての細胞はお互いに関わりあって支え合っていて、少しでも乱れてしまうと取り返しもつかない病気を生み出してしまいます。それを知ると、今、私たちが「普通」に生きているのは奇跡といってもいいかもしれず、わくわくします。脳内の分子機構で大事な役割をになっているひとつが、mRNAです。
 mRNAは、合成開始から分解されるまでに様々な制御を受けます。RNA代謝の過程で、mRNAはDNAから転写、翻訳されるまでに不要な部分が切断され、これを「RNAスプライシング」と呼びます。これまで、RNAスプライシング異常が疾患の原因になるという報告がありますが、様々な論争が続いています。また、RNAスプライシングには特異性があるのも特徴です。たとえば、同じAという遺伝子があったとしても、脳、心臓、筋肉…と組織ごとにスプライシングパターンが異なる場合があるのです。RNAスプライシングの基本的なメカニズムはかなり前から明らかになっていますが、「組織ごとの特異性」を決めているのが一体何なのかは、まだよく分かっていません。RNA代謝の異常は、特に神経系に関連する疾患を引き起こすことが多いと言われています。鶴田先生は、神経変性疾患に大きく関わっている可能性があるRNAスプラシイングについて、「組織特異性を明らかにすることが、なぜ、神経系でのみ疾患の表現型が現れるのかの解明に繋がるではないか」と、考えています。

タンパク質分解の異常
 これまでに、RNAスプライシングに加えて、タンパク質分解の異常も神経系の疾患の原因になることが報告されており、鶴田先生はそれにも注目しています。タンパク質分解では、「ユビキチン」と呼ばれるタンパク質が重要な機能を担っていますが、ユビキチンは、標的タンパク質に結合すると、標的タンパク質を分解へ導くタグとして機能することが知られています。
 このなかでも、鶴田先生はUSP15という脱ユビキチン化酵素の一つについて研究を行っています。名前の通り、USP15には標的タンパク質からユビキチンを取り除く働きがあります。これまでわかっていることとして、USP15の機能を失ったUPS15ノックアウトマウスは、運動失調などの表現型を示し、その上スプライシング異常が生じます。そのことから、やはり「タンパク質分解の異常は、RNAスプライシングの異常を引き起こし、神経変性疾患につながっているのでは」と、鶴田先生は研究を続けられているのです。











「ミクログリアが好き」
 これらのテーマをもとに、鶴田先生は研究領域をもう少し広げて、「神経細胞内のRNAタンパク質の代謝異常が細胞外環境に及ぼす影響、特に脳神経系における細胞間コミュニケーション」の解明を目指しています。そのなかでも、特に少し前まで“マイナー”であったミクログリアと神経細胞の相互作用に注目されているそうです。ミクログリアとは、グリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)の1つで、脳内免疫を担当する細胞です。ミクログリアは、脳の中のマクロファージ(強い食作用をもつ自然免疫に関わる細胞)とも言われるだけあり、サイトカインを分泌したり、炎症を起こしたり、異物を食べて細胞を保護したりもするのです。ミクログリアは由来も明確にはわかっていない不思議な存在です。免疫は、アレルギーがそうであるように過剰に発現してしまうと私たち自身を攻撃することもあるため、ミクログリアについて研究が進めば、脳内免疫機構が明らかになることでしょう。

修士課程での発見が転機に
 鶴田先生は大学では化学を専攻していましたが、鶴田文憲先生は自分の子どものころについて「本当に普通でした。没頭するようなものも特にそんなになかったです」とおっしゃり、肩肘張らずに進路決定したお話を披露してくださいました。物心ついたころから文系は合わないなと考え、比較的得意だった化学科に進学したそうです。大学で学ぶうちに医学に漠然とした興味をもつようになり、卒業研究では生化学の研究室に入りました。修士課程に進学し製薬会社への就職も決まりましたが、その間も実験がうまくいかなかった。でも、実験はあきらめず続けました。すると、その頃、人生の進路を決める大きな発見に幸運にもめぐりあうことができました。鶴田先生は、あるタンパク質に結合するタンパク質を探す実験を行っていたところ、修士2年生の夏ごろ、ちょうど修士論文をまとめはじめたときに、面白い結果が出たのです。様々な条件を検討して試行錯誤した結果、結合タンパク質を得ることに成功し、その後半年間いい結果が出続けました。「今思えば全然たいしたことないのだけど、当時は研究のこともよく分からなかったしね」と、照れながら当時の経験を振り返ります。
 2年間研究員として製薬会社で過ごした後、やはり博士課程の学生として再び大学に戻ったのは、結合タンパク質の発見で「研究って面白い!」という強い感動が印象に残っていたからでした。

一生懸命な姿へ人は惹かれる
 チャレンジが好きで、「全て綱渡り的なところがある」と言う鶴田先生ですが、自分のしていくこと、したいことを決めるのに大切なのは、「気持ちを切らさず方向性をしっかりさせること」と、「環境や周りの人々との関わり合いだ」と話してくれました。どんな環境に身を置くかが大切であり、似たような方向性を向いていれば、あとで軌道修正ができるのです。
 周りの人々との関わり合いについて、研究の話を物凄く楽しそうにする大学時代の友人に大きく影響されたり、博士課程時代の恩師を見ていて生き方がかっこいい、とあこがれを抱いていたりしました。「行った先で一生懸命やっていればそういう人が集まってくるので大丈夫」、という鶴田先生のお話を聞き、周りの人に流されるのではなく、自分がみんなに影響を与え、人を惹き付けるくらいの気持ちでいなくてはと、心がシャキッとしました。

目に見えない実態を明らかにして、目に見える医療へ貢献
 鶴田先生が目指す方向性の先にあるものは何なのでしょう。将来の夢を伺ったところ、「本当に小さくてもいいので、実験を続けていって、教科書や世界的な科学史に残るような仕事がしたいな」と、にこやかに話してくれました。医学博士(MD)ではないから、臨床実験はできません。だからこそ、「お医者さんが研究しないようなベーシックなメカニズムを解明し、それをお医者さんにつなげて行って応用してもらいたい」と、鶴田先生は考えています。
 体の中で起こった目に見えない小さな変化が積み重なって、表現型として大きく深刻な病気を引き起こします。鶴田先生は、RNAスプライシングやタンパク質分解の異常など、小さなベーシックにある根本的な破綻が、どういった影響を与えるのかを明らかにしようとしています。最終的には、これらの基礎科学の研究が、精神疾患や神経変性疾患など、目線の先にある病気を治療に繋がればと研究を進めています。ある意味、陰の功労者であってこそ、それが基礎研究にたずさわる研究者のかっこよさなのかもしれず、これこそ、自分の好きなことをして世の中の役に立つ、ということなのかもしれません。

 PROFILE

鶴田文憲 助教
筑波大学 生命環境系

98年に東京都立大学大学院にて化学専攻修士課程を修了。約2年間持田製薬株式会社で研究者として勤務し、2003年に東京大学大学院工学系研究科で博士課程を修了。東京大学分子細胞生物学研究所にて博士研究員として勤務した後、2004年からスタンフォード大学での研究員を経て、2009年に筑波大学生命環境系生物科学専攻にて助教に就任。現在は主にニューロンとミクログリアの相互作用や脳神経系におけるRNAタンパク質代謝の制御について研究している。休日には3人のお子さんと遊ぶ良いお父さんでもある。
【取材・構成・文 筑波大学生物学類1年 萩田美乃里 】
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