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学生による教員紹介

生物学類の先生はどのような研究をしているのでしょう?
学生たちがインタビューに行きました!

進化の絵巻物を描く!~「生物の歴史」を明らかに~

八畑 謙介先生
生命が誕生して約40億年。私たちの身の回りには多様な生物が存在します。
あるものは空を飛び、あるものは地面を歩く。姿も、生き方も異なる生物達はどのようにして生まれてきたのでしょうか。
そんな謎に迫るのが系統分類学。

今回は、系統分類学を専門とする筑波大学生物学類の八畑謙介講師に「系統分類学とは何か?」についてお聞きしました。


長くて、細くて、うねうねと動く生き物は何ですか?

 長くて、細くて、うねうねと動く動物。
皆さんは何を思い浮かべますか?ヘビ?ムカデ?それとも、ヤスデ?
この情報だけでは、様々な生物が当てはまります。それでは、「同じような形の胴節をもち、その多くに関節のある付属肢を2対ずつもつ細長い生き物」ではどうでしょうか。少し難しいかもしれませんが、これなら正解が「ヤスデ」であるとわかるはずです。「生物を正しく認識するためには、細かな知識が必要になってきます」と八畑先生。先生は、動物の特徴を見極め、仕分けるプロフェッショナルです。


「進化の樹」を育む
 先生が専門とする「系統分類学」は、様々な生物を区別し、進化の順に並べていく学問です。基本となるのは、生物を「分ける」学問である分類学と、生物を「つなげる」学問である系統学。前者は、生物の定義付けとグループ分けを、後者は、グループを進化の歴史に沿って並べる役割を担います。「分けるとつなげる。一見矛盾した学問同士が組み合わさることで、生物の歴史をひも解くことができるようになる」と八畑先生。2つの視点による知見を集積することで、生物の歴史を示した「進化系統樹」を描き出します。生命が誕生して約40億年。生物の多様性とそれが生まれる過程を推測するのが系統分類学なのです。















図は八畑先生が作製に関わった多足類(Myriapoda)の系統樹です。先生達は、生物の設計図と言われるDNA、RNAの合成に関係するタンパク質を比較してこの系統樹を完成させました。多足類に存在する4つのグループがどのように進化(枝分かれ)してきたかを表しています。枝の根元が左に近いほど、分岐した順番が早いと考えられます。図は論文より一部改変して使用しました。(Miyazawa, H., Ueda, C., Yahata, K., and Su, Z.H. (2014) Molecular phylogeny of Myriapoda provides insight into evolutionary patterns of the mode in post-embryonic development. Scientific Reports, 4, 4127)




真実がわからない?
 しかし、系統分類学には大きな弱点があります。それは、「真実がわからない」ということ。系統分類学で取り扱うのは生物の歴史。そのため、打ち立てた仮説を本当の歴史と照らし合わせる術がありません。仮説として打ち立てた「進化の歴史」つまり、系統仮説が真実かどうかを明らかにするためには、過去に戻るほかないのです。「過去に起きた進化の歴史を直接観察することができない、というのは系統分類学の抱える大きな問題なのです」と八畑先生は話します。



樹と樹を照らし合わせて真実に近づく

 では、どのようにして系統仮説を真実に近づけているのでしょうか。鍵は、進化系統樹の作り方にあります。系統樹の材料となるのは分類学によって明らかになった、生物の発生過程や、形態や遺伝情報などの「形質」。特定の形質に着目して生物間の比較をすることで進化の流れを予想し、系統樹を作製します。こうしてできあがるのが1つの系統仮説です。しかし、このままでは先に述べたように、仮説が真実かどうかわかりません。「系統分類学では、異なる形質をもとに作製した系統樹同士を照らし合わせることで、系統仮説を真実に近づけてゆきます」と八畑先生は語ります。異なる形質をもとに作製した数多くの系統樹を比較検証することが、系統分類学における仮説検証なのです。系統仮説の確からしさは、使用した形質の数に比例する傾向にあるといっても過言ではありません。

 近年では、科学技術の発展により、生物の設計図である「DNA」などの塩基配列が読めるようになりました。これらは、親から子に伝わる生存に必須の情報ですので、進化の歴史をひも解くのに絶好の形質。しかも、容易に多くの配列を得ることができます。「塩基配列を用いれば、今までとは比べ物にならない数多くの情報を詰め込んだ系統樹が作れる。真実に近づくための強力な武器になります」と八畑先生は話します。













系統樹から、さらに奥深い分類へ
 分類学から系統学へ。受け渡された知見は、進化系統樹という形で再び分類学の舞台に戻ってきます。「系統樹があって、初めてできることもある」と八畑先生。先生の専門は系統分類学の中でも分類学寄りです。

 分類学の主な役割は、先に述べた「形質の記載」。研究対象とする生物の細かな特徴を文字に起こすことだといいます。「生物の特徴を言葉にすることはとても重要です。形質の記載無くして今日の生物学はありません」と八畑先生は語ります。形質の記載はいわば生物へのラベル付け。特徴を言葉にすることで初めて、ある生物をある生物として、人々に共通認識させることができるのです。特定の生物に対する共通認識が無ければ、確かに、その生物を用いた研究を多くの人たちが積み重ねて行くことはできません。

 進化系統樹を手にすることで、分類学の可能性はさらに広がります。形態などの形質と系統樹とを照らし合わせることで「形質の変化の推定」ができるようになるのです。「生物種がどのような順で進化してきたか、だけでなく、どのような変化が起こったかまで説明できるようになる」と八畑先生は話します。

 分類学と系統学。互いの知見を利用し合うことで系統分類学は進化の歴史に迫ってゆくのです。





















図は、先に示した系統樹をもとに、形質の変化を推定したものです。青、肌色、赤、緑の丸はそれぞれ異なる形質を示しています。系統樹と、個々の個体の形質とを比較することで、形質の変化を推定することができるのです。図は論文より一部改変して使用しました。(Miyazawa, H., Ueda, C., Yahata, K., and Su, Z.H. (2014) Molecular phylogeny of Myriapoda provides insight into evolutionary patterns of the mode in post-embryonic development. Scientific Reports, 4, 4127)




遺伝子の解明による、系統分類学の発展
 「20年前ならこの説明でよかったんだけどね」と八畑先生。ここに来て、系統分類学は新たなステージに進んでいるといいます。きっかけとなったのはHox遺伝子など、動物の「形態形成(かたち作り)」に関わる遺伝子の解明。適切な場所・タイミングで遺伝子が働く(発現する)ことで、形態形成が誘導されることが明らかとなりました。「形態とそれに関わる遺伝子の発現を関連づけられるようになった」と八畑先生。生物の「形態」と「遺伝子の発現」を照らし合わせることで、進化の裏付けができるようになったのです。「系統分類学は、今ある状態を整理して説明するだけにすぎなかった。形態形成の仕組みがわかってきたことで、進化のメカニズムにまで踏み込むことができるようになる」と先生は興奮気味に話します。生物間における差の有無だけでなく、そのメカニズムにまで迫れる可能性が出てきたのです。

 分子生物学や細胞生物学などの学問は生物の「仕組み」に着目することで、急速な発展を遂げたといいます。一方、系統分類学が「仕組み」に迫ることができるようになったのはつい最近。「系統分類学は今、まさに発展の時を迎えている」と八畑先生は話します。

 生物はどのように進化し、どのように多様性を形作って行ったのか。 系統分類学は新たな武器を得て、進化の歴史の理解、そして多様な生物の認識を進めてゆきます。「進化の絵巻物」の完成は、時間の問題かもしれません。











研究者になるきっかけは、意外な出会いの連続だった
 八畑先生が系統分類学の世界に飛び込むきっかけとなったのは、筑波大学3年生の時に参加した臨海実習でした。「いろんな生き物がいる。いろんな動きをする。ただただ、楽しかった」と八畑先生は振り返ります。元々は、神経生理学や心理学など、別の分野に興味があった先生。しかし、様々な生物に触れる実習に参加したことで、思いがけず、生物の多様性に魅了されたといいます。
           
 そうして系統分類学の世界にのめり込んで行った先生は、今や立派な研究者。多足類の分類が専門です。用いているのはヤスデやムカデ。特に、「卵巣構造」の研究をしています。「ヤスデやムカデのような、外骨格の発達した生物では、体の中についてあまり調べられていなかったんです」と八畑先生。未だ知られていない、記載すべき形質がたくさんあるのだといいます。
           
 そもそも、先生がヤスデを研究しはじめたのは、大学院生時代の頃。きっかけは、当時の指導教員の勧めでした。当時は大好きなムカデを研究したかった先生。しかし、指導教員は「ムカデ嫌い」だったといいます。「指導教員に何となく言いくるめられました(笑)。まさか、大人になるまで研究し続けるとは思わなかったけど」と八畑先生は話します。長年研究することとなる生物との出会いは意外なところにありました。

 今では、念願叶ってムカデの研究も始めた先生。「まぁ思えば、もともと細長くて、節々した生き物が好きだったんだよね」と八畑先生は笑います。










 PROFILE

八畑謙介講師(筑波大学生命環境系)

1968年生まれ。95年に筑波大学生物科学研究科博士課程修了。現在は同大の講師。研究者として活躍する傍ら、中学・高校の理科教員への指導など、科学教育にも力を注ぐ。学生からの支持も厚く、先生が担当する野外実習は毎年定員オーバーになる。コーヒーは濃いめが好き。
【取材・構成・文 倉持大地 】
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