腹膜播種性腫瘍モデルラットの新生血管における血球挙動の生体顕微鏡的観察

−白血球-血管内皮細胞相互作用に及ぼすNOの影響−

田 口 絵 里         指導教官:大 島 宣 雄 

[目的と導入]
  腫瘍組織においては、血管の新生が持続的に誘導される。これまで医工学研究室では、腫瘍モデルラットを用い、 腫瘍内の新生微小血管において血流のずり速度の低下にも関わらず白血球-血管内皮細胞相互作用(leukocyte- endothelial interaction; L/E)が減少することを報告してきたが、その変化に関わる因子や生理的な意義につい ては明らかにされていない。
 一方、腫瘍モデルにおいて、血管の新生および腫瘍の増殖に伴って血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor; VEGF)の分泌が亢進することが確認されたが、VEGFには血管の新生という直接的な作用のほかに、 多彩な生理機能を示す一酸化窒素(nitric oxide; NO)の産生を制御することが報告されている。NOには、白血球 の血管内皮への接着を抑制する作用があることから、本研究では、腫瘍内部におけるVEGFの増加とNOを介したL/E の作用の関連について解析することを最終目標として、メディエーターとして働くことが示唆されるNOの産生を阻害 したときの白血球の挙動を生体顕微鏡下に観察し、その変化について検討を行った。


[実験材料と方法]
 腹膜播種性腫瘍モデルラットは、本学基礎医学系医工学研究室で開発 された方法に従い、Fischer 344 系雄性ラットの腹腔内に腫瘍細胞株であ るRCN-9(理研細胞バンク)を1×107個播種することによって作成した。
微小循環の血流動態の観察には、リアルタイム共焦点レーザー走査型顕 微鏡システム(Fig. 1)を用い、ラットの腸管膜を顕微鏡下に展開して、 腸管膜微小血管および腫瘍内部の血管を観察した。生体顕微鏡の画像は ビデオに記録し、オフラインで血流動態および血球挙動の解析を行った。
血球成分をの選択的に可視化するために、蛍光トレーサーを経頸静脈的 に投与した。すなわち、白血球の染色には、Rhodamine 6Gを用い、 G励起で観察した。また、FITC(fluorescein isothiocyanate)でラベルした 赤血球をB励起で可視化することによって赤血球中心流速を測定した。 NO合成酵素(NO synthase; NOS)の阻害薬には、L-NAME(Nω-nitro-L- arginine methyl ester)を用い、100 μgの濃度で灌流液中に局所投与したと きの白血球の挙動の変化を観察した。
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[結果と考察、今後の展開]
 白血球は、特に静脈性の微小血管内においてrolling(回転)、adhereing(接着)などの特異的な挙動を示す。腫瘍細胞の播種後7日目の個体を用いて、腸管膜の微小血管における白血球の速度を解析したところ、同部位の赤血球中心流速に対する白血球のrolling速度は、生理的な条件下にある正常な血管と同様の分布を示した(Fig. 2)。また腫瘍群ではコントロールに比べ、Fig. 3に示すように観察部位の微小血管を通過した総白血球数の減少が観察されるとともに、総白血球数に対するrollingする白血球の割合の有意な低下が観察された(Fig. 4)。L-NAMEを用いてNOSを阻害した条件では、両群ともに白血球速度の分布に有意な変化は認められなかった(Fig. 2)。腫瘍群においては、rollingする白血球の速度分布に変化が見られないにもかかわらず、NOSの阻害薬を投与した後にrollingを示す白血球が有意に増加し、コントロール群とほぼ同じ割合になったことから、腫瘍内の血管における血球挙動の変化には、NOが関与していることが示唆された。
 今後は、腫瘍で産生が亢進していると考えられるNOの由来を調べるため、NOSの刺激因子の阻害剤などを用いた検討を行う予定である。

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