エゴヒゲナガゾウムシの生活史   Summary of graduation study. 15th Jan. 2000  
 松尾 洋       指導教官 : 斉藤隆史    

 植食性昆虫と宿主植物の相互作用は生態学の中でもより詳細な研究がなされてきた分
野の一つである。エゴヒゲナガゾウムシ(Exechesops leucopis)はエゴノキ(Styrax 
japonica)を宿主とする鞘翅目ヒゲナガゾウムシ科の年一化性昆虫であり、エゴノキの種
子を産卵場所として利用する。また、E. leucopis は移動能も比較的小さいことから、野
外での植食性昆虫類と宿主植物の相互作用を知る上で良いモデルとなる可能性があるが、
長期的研究を必要とするためかその詳しい生態はほとんど知られていない。
 エゴノキは日本全土に分布し、以前から人間の生活と深い関わりを持った亜高木の落葉
広葉樹である。現在は公園や並木などに多く植樹されているため、種子の入手も容易であ
る。初夏に果実が成熟し、一つの果実には通常一つの種子が含まれ、大きい果実になると
2〜4個含む場合もある。果肉部分はエゴサポニンという毒性物質を含んでおり、さらに
種皮はとても堅いのが特徴である。
 落下種子の調査から、種子あたり幼虫1個体のみ成長が可能であること、体の大きさは
種子の大きさによって制限されていること、また、産卵跡の数はほとんどが1つであり、
産卵様式に一様分布が確立していることが分かっている。幼虫は種子の内容を全て摂食し
て成長し、種子の中で幼虫越冬する。翌年の初夏に蛹化し羽化して、種子に脱出口を開け
出現することも示されている。ただし、成虫の繁殖行動の観察は行われておらず、詳細は
不明であった。
 本研究ではエゴヒゲナガゾウムシの繁殖行動を中心に生活史全般を明らかにすることを
目的とした。
METHODS
 エゴの実を野外のエゴノキの下から拾い、羽化してきた個体を飼育した。各木ごとに羽
化日と羽化数、雌雄の区別を記録した。野外でマークした個体を追跡調査し、産卵に要す
る時間、交尾様式などを観察・記録した。産卵数と産卵選択性を明らかにするために、枝
に網袋をかけその中に捕獲した成虫メスを入れ、産卵数を日毎に記録した。また産卵種子
と無産卵種子の大きさを測定し、種子の大きさに対する選択性の有無を検証した。
RESULTS
 産卵に要する時間は41.3±9.4 分(n=26 ; average±SD) であり、一日の産卵数は最高
8個で、生涯で17個産み得ることがわかった。繁殖可能なE. leucopis のメスは果実表
面の入念な探索を行い、既に産卵されている種子は利用しない。利用可能な果実の果肉部
分を穿孔し、種子に適度な穴があくと産卵管を用いて最終的に産卵孔を完成させ、種子の
内果皮の内側に一卵産卵する。これらの行動特性を考慮して、現在解析中の大きな種子へ
の選好性の有無を考察するつもりである。

 今後は雌雄の生涯繁殖成功度をはじめ、さらに詳細な行動生態の調査を行う必要があ
る。また、興味深いテーマとしてE. leucopis と同所的・同時期にエゴノキの種子を利用
するエゴシギゾウムシ (Curculio styracis )との相互作用、並びに種子の豊凶と昆虫の個
体群動態が挙げられる。

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