シミ目(昆虫綱)の発生学的研究

増本 三香           指導教官 : 町田 龍一郎

[目的]
 シミ目は、カマアシムシ目、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目とともに「無翅昆虫類」と総称される昆虫類の一群である。この「無翅昆虫類」のなかで、シミ類は、外顎型の大顎が頭蓋に2点で関節する双関節丘をもつなどいくつかの点で、大部分の昆虫を含む有翅昆虫類と共通している。このため、シミ類は有翅昆虫類の直接の祖先形に最も近縁なグループと考えられている。したがって、シミ類の発生を研究することは、有翅昆虫類とその姉妹群であるシミ類を含めた双関節丘類の、発生学・形態学的グランドプランを解明する上でたいへん重要である。
 そこで、シミ類の発生学的研究を行うにあたり、本研究ではその第一段階として、発生学的研究の基礎となる材料の確保および観察方法の確立を目指す。さらにシミ類の胚発生の概略を記載する。

[方法]
 シミ成虫を、キムワイプを敷き詰めた容積1リットルのプラスチック容器に約30匹ずつ入れて室温(約20℃)または30℃で飼育した。餌としてカロリーメイトをあたえ、脱脂綿を産卵床とした。得られた卵は20℃または30℃でインキュベートし、固定はブアン液またはアルコールブアン液で行った。固定した卵はフェノールチオニンなどで染色したり、パラフィン連続切片を作成、ヘマトキシリン―エオジン二重染色を施すなどした後、光学顕微鏡下で観察した。また、間欠ビデオ装置による発生過程の記録も試みた。 
 

[結果と考察]
1) 筑波大学菅平高原実験センターの実験室内および長野県上小地域の野外においてセイヨウシミ Lepisma saccharina Linnaeus, 1758を、琉球大学農学部の研究室内においてオナガシミ Ctenolepisma longicaudata Escherich, 1905を、十分な個体数採集することができた。
2) これらのシミ類を飼育し、採卵に成功した。セイヨウシミの卵期は20℃条件下で40日〜46日、オナガシミの卵期は30℃条件下で23日〜26日であることが分かった。セイヨウシミの卵(図A)とオナガシの卵(図B)を写真に示す(スケールは1 mm)。
3) 胚の全体染色はフェノール・チオニンで、パラフィン連続切片はブタノール法で良好な結果が得られた。
4) セイヨウシミの卵はD. W.中で、オナガシミの卵は2 〜 4倍希釈したエフルッシ・ビードル液(ショウジョウバエ用生理食塩水)中で良好に発生することが分かり、産卵直後から孵化するまでの発生過程を、間欠ビデオ装置により撮影・記録することができた。
5) 胚の全体染色およびパラフィン連続切片の観察、間欠ビデオ装置による発生過程の解析により、セイヨウシミ、オナガシミの胚発生の概略を知ることができた。
 

 
 今後は、さらに多くの種を材料とし、シミ類の胚発生をさらに詳しく比較観察し、比較発生学・形態学の見地からの系統学的議論を行いたい。