海洋懸濁粒子の凝集過程における植物プランクトンの細胞外炭水化物の役割

岡本 匡史    指導教官 濱 健夫

目的

 環境問題がますます深刻化する近年、海洋における物質循環の解明が必要とされている。海洋における物質循環の中で、有機物生産のほとんどは植物プランクトンによって行われ、生産された有機物の多くは有光層内で無機物に分解され、再び植物プランクトンの光合成に利用される。その一方で、凝集し沈降粒子として深層へ沈降してゆくものも存在する。

 現在のところ、この凝集には植物プランクトンの細胞外炭水化物EPS(Extracellular Polymeric Substance)が関与しているとされているが、詳しくは分かっていない。そこで本研究では下田沖を研究対象とし、状態の異なる粒子を採集し、それぞれを化学処理によってEPSを分離・分画し、EPSの割合の変化と単糖組成を測定することにより、海洋で起きている粒子の凝集過程において、EPSが果たしている役割を明らかにすることを目的とした。

 

方法

 2000年4月と11月に静岡県下田市の下田沖でサンプリング、およびトラップ実験を行った。浮遊している粒子を含む表面0m水はバケツを用いて採水し、47mmガラス繊維濾紙で濾過することによって懸濁粒子を集めた。プランクトン試料はプランクトンネットで採取した。沈降粒子は20m、25mにセジメントトラップを24時間設置することにより採取した。

まずネットで採取したサンプルを用いて、EPSの主成分の1つである酸性糖の可溶化に対するブロムヘキシンの濃度効果について検討した。

次にネットとトラップの試料の一部をブロムヘキシンで処理した。この処理によりEPSは溶解する。処理試料および未処理試料をガラス繊維濾紙により濾過し、濾紙上および濾液中の炭水化物濃度をフェノール硫酸法によって測定した。可溶化したEPS由来の炭水化物量は処理試料と未処理試料の差から算出した。

 

結果・考察

ブロムヘキシン処理によって測定された粒子状炭水化物中におけるEPS量は、ネット試料では11%に過ぎなかったが、沈降粒子(20m 25m)においてはそれぞれ20%と16.5%に増加していた(図)。

 海洋の表面近くを漂う粒子やプランクトンが沈降するためには、凝集し大型化する必要があると言われている。そして粒子やプランクトンの凝集による大型化には、それを助ける接着剤のようなものの存在が不可欠であるとされている。

ネット試料に比べ沈降粒子においてEPS含量が増加している今回の結果は、EPSが粒子の凝集を助けることによって沈降に関与していることを示唆している。