VHSドメインを有するタンパク質の機能に関する研究

 

GGAタンパク質のVHSドメインとTGNに局在する選別輸送受容体の酸性ジロイシンモチーフとの相互作用

 

学籍番号980300 加藤洋平

 指導教官 中山和久

 

<目的>

 TGNと細胞膜やエンドソーム/リソソームの間のタンパク質輸送は、クラスリンコート小胞により行なわれる。クラスリンと小胞上の積み荷タンパク質の結合は、異なったアダプタータンパク質(AP)複合体により仲介される。最近、新規のアダプタータンパク質としてGGAファミリー(GGA1-GGA3)が同定された。GGAは、N末端側からエンドサイトーシスに関与するタンパク質で保存されたVHSドメイン、GGAとTOM1で保存されたGATドメイン、プロリンに富んだヒンジ領域、AP-1複合体のγ-アダプチンのイアー・ドメインと相同性を有するAGEHドメインからなる。これらのドメインのうち、GATドメインは低分子量GTPaseのARFと相互作用してTGN膜への結合に関与する。ヒンジ領域にはクラスリンが結合し、AGEHドメインにはラバプチン5やγ-シナージンが結合する。しかし、VHSドメインの機能はGGAだけでなく、他のVHSタンパク質でも不明であった。

 

 そこで本研究では、酵母two-hybridスクリーニングによりGGAのVHSドメインと相互作用するタンパク質を見つけ出し、GGAのVHSドメインの機能を明らかにすることを目的とした。

 

<方法>

・酵母two-hybrid system

two-hybrid systemは、LacZなどレポーター遺伝子の発現を指標にしてタンパク質間の相互作用の有無を検出する方法である。まず、LacZの転写因子であるGal4のDNA結合領域とGGA1のVHS+GATドメインを組み込んだ発現ベクター(bait)を構築し、酵母Y190株にトランスフォームした。次にbaitベクターを導入した酵母Y190株にGal4の転写活性化領域にヒト脳由来のcDNAライブラリーを組み込んだ発現ベクター(prey)をトランスフォームし、トリプトファン、ロイシン、ヒスチジンを欠如した培地で5-7日間培養した。生育したコロニーに対してフィルターアッセイを行ない、β-ガラクトシダーゼ活性を調べた。そして活性のあったクローンからpreyベクターを回収して塩基配列を解析した。

 

baitにGGAファミリーのVHSまたはGATドメインを用い、preyにはスクリーニングによって得られた酸性ジロイシン(ACLL)配列を持つ選別輸送受容体(ソーティリンとLRP3)、ACLL配列を持つMPR、ACLL配列のアミノ酸を置換したソーティリンを用いてこれらの相互作用を調べた。

 

pull down 解析

GGAファミリーのVHSドメインとチオレドキシン・ヒスチジンタグの融合タンパク質を大腸菌に発現させた。同様に、野生型ソーティリンやACLL配列のアミノ酸を置換したソーティリンとGSTの融合タンパク質を発現させた。これらのタンパク質を精製し、pull down解析を行なった。

 

・間接蛍光抗体法

ソーティリンの細胞質領域(野生型およびACLL配列のアミノ酸を置換したもの)をTacにつなげたキメラレセプターを作製した。これらのキメラレセプターを単独、あるいはHAタグをつけたGGA1やEEA1と共にHeLa細胞にトランスフェクションした。その後、間接蛍光抗体法により細胞内の局在を調べた。

 

<結果と考察>

1. GGA1のVHSドメインを用いたtwo-hybridスクリーニングにより、ソーティリンとLRP3の細胞質領域が結合することを見い出した。両方のタンパク質ともにC末端に酸性ジロイシン(ACLL)配列を有しており、この配列はCI-MPRやCD-MPRにも見られる。

 

2. two-hybrid解析やPull-down解析により、ソーティリンやLRP3だけでなく、CI-MPRの細胞質領域もGGA1やGGA2のVHSドメインと結合することを確認した。

 

3. VHSドメインの一部を欠失したGGA3SのVHSドメインは細胞質領域とは結合しなかった。このことは、GGA3Sで欠失したVHSドメインの領域が細胞質領域との相互作用に重要であることを示唆する。

 

4. GGA以外のタンパク質(STAM、TOM1)のVHSドメインは細胞質領域には結合しなかった。このことは、GGAファミリーで保存された残基が細胞質領域との結合に重要であることを示唆する。

 

5. ソーティリンのACLL配列にアミノ酸置換を施した結果、ロイシン対とロイシンに隣接する酸性アミノ酸のクラスターがVHSドメインとの相互作用に重要であることが明らかになった。

 

6. ソーティリンの細胞質領域をつなげたTacはTGNに局在し、その局在はGGAと一致した。しかし、ロイシン対や酸性アミノ酸に変異を導入すると、エンドソームに局在するようになった。このことから、GGAとの相互作用がソーティリンの局在を決定していると考えられる。

 

<結論>

GGAタンパク質は、選別輸送受容体の細胞質領域に存在する酸性ジロイシン(ACLL)配列に結合することにより、リソソームタンパク質のTGNからエンドソームへの輸送を調節すると予想される。