神経発生におけるソマトスタチンの機能解析

氏名 加藤太朗  指導教官 志賀隆


目的
 ソマトスタチンは14もしくは28個のアミノ酸からなるペプチドで、脳下垂体前葉に おいて成長ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの放出を抑制することが知られている。さ らに、ソマトスタチンが軟体動物Helisoma で神経突起の伸長を促進し、親クロム性細 胞種PC12において神経成長因子(NGF)による神経突起の伸長を促進するはたらきがあ ることが示されているが、脊椎動物の神経発生における役割はほとんど解明されてい ない。本研究では、ニワトリ胚の脊髄/脊髄神経節を材料とし、免疫組織化学的手法 や組織培養を用いて神経発生におけるソマトスタチンの機能を解析することを目的と している。

方法
1)ニワトリ胚の脊髄におけるソマトスタチンの発現の観察
  孵卵2日から8日のニワトリ胚を摘出し、その頚部を切断して、脊髄断面の凍結 切片を作成した。この切片に対し、ソマトスタチン抗体を用いて免疫染色を行った。
2)脊髄神経節からの突起伸長におけるソマトスタチンの機能解析
  孵卵9日~11日のニワトリ胚から摘出した脊髄神経節をコラーゲンゲル上で、ソ マトスタチンを加えなかった培地(DMEM / ITS) と加えた培地で1日培養した。1つの 脊髄神経節から伸びる神経突起の中で、長いもの10本の長さを計測し、各脊髄神経節 の平均値を算出した。次に、同じ条件の脊髄神経節の平均値を求め、各条件で比較し た。
3)in vivoでのソマトスタチンの機能解析
  孵卵2.5日のニワトリ胚に、ソマトスタチンを投与した。1.5日孵卵した後、頚髄、 胸髄、腰髄の各レベルでの凍結切片を作成した。この切片に対し、神経細胞に特異的 なβ-tubulinに対する抗体、および脊髄の運動ニューロン、感覚ニューロンに特異的 に発現している転写因子であるIslet-1に対する抗体を用いて免疫染色を行い、脊髄 での神経発生の変化を調べた。

結果
1)孵卵3.5日胚の脊髄後角および脊索にソマトスタチン免疫陽性反応が見られた。脊 髄後角では粒状の発現が見られた。また、孵卵4日以降では、上記に加え交感神経節 に繊維状の強い反応が見られ、脊髄中間帯でも反応が見られるようになった。孵 卵6.5日になると、外側運動神経核で反応が見られ、孵卵8日ではそれに加え、内側運 動神経核でも反応が確認できた。
2)、3)現在解析中である。

考察
1)発生初期からソマトスタチンの発現が確認された。脊髄での神経回路が形成される のは孵卵8日以後なので、ソマトスタチンは脊髄や交感神経節などにおいて神経伝達 以外に、神経の発生に関与する可能性が考えられる。