細胞性粘菌における配偶子特異的遺伝子の機能解析

                                 荒木芳規    担当教官 漆原秀子

 

<目的>

細胞性粘菌Dictyostelium discoideumは、通常バクテリアを補食して増殖する単細胞アメーバである。増殖期の細胞を暗条件下で液体培養すると性的に成熟し、相補的な交配型どうしの細胞が融合する。その結果、マクロシストとよばれる厚い壁に覆われた構造体を形成する。D. discoideum(ここは斜体で!!)は、この有性生殖過程を人為的に誘導することができ、分子遺伝学的手法が確立しているので、有性生殖機構を調べるうえで優れたモデルとなっている。これまで、我々の研究室では性的成熟細胞(FC細胞)から作製したcDNAライブラリーをもとに、配偶子で機能する遺伝子群の解析が行われてきた。特に、FC細胞と性的未成熟細胞(IC細胞)の遺伝子の発現比は、配偶子に必須な遺伝子の解析には欠かせない情報である。本研究ではそのように配偶子で特異的な発現がみられる遺伝子を選び、遺伝子破壊することによって有性生殖に関わりがある遺伝子の同定、解析を行うことにした。

 

<方法>

実験は以下のような順序で行った。

(1)配偶子cDNAライブラリーから、配偶子での発現量が増す遺伝子を選ぶ。(発現は、以前に本研究室でノーザンハイブリダイゼーションにより調べられた)

(2)そのような遺伝子がシングルコピーであるかどうか調べるため、cDNAをプローブとしたサザンハイブリダイゼ−ションを行う。

(3)シングルコピーであることが確認できた遺伝子を、遺伝子破壊の対象とする。

(4)遺伝子配列、周辺配列をもとに、bsrBlasticidin resistance)をマーカーとする遺伝子破壊ベクターをつくる。

(5)遺伝子破壊ベクターを粘菌細胞に導入し、相同性組み換えを利用して遺伝子破壊株を得る。

(6)遺伝子破壊株の表現型を調べる。

 

<結果>

 これまでに3個の遺伝子の遺伝子破壊ベクターを作製し、粘菌細胞へ導入した。結果は、以下のようである。

クローン名

発現比(FC/IC)

遺伝子破壊ベクターの構築

形質転換体数

遺伝子破壊株

FC-BB04

2.4

作製

67

0

FC-BL06

2.5

作製

23

0

FC-BJ17

2.9

作製

12

0

FC-BJ06

6.5

作製中

  

 

<考察と展望>

 これまで多くの形質転換体を得たが、まだ遺伝子破壊株は得られていない。この原因としては様々なことが考えられるが、遺伝子破壊株では増殖に重要な遺伝子の機能が損なわれている可能性が高い。このような場合には、誘導型ベクターを用いたアンチセンス法など、制御できる機能阻害を試みる必要があると考えられる。また今後は、これまでの配偶子cDNAライブラリー中の遺伝子に加え、細胞融合への関わりが示唆されている新奇の遺伝子mac(ここは斜体で!!Aの遺伝子破壊や、配偶子で発現が減る遺伝子の過剰発現などによる実験を行っていきたいと考えている。