自己免疫疾患発症機構解明を目的としたトランスジェニックマウスVA T-betの作成
980758 石崎 和沙 担当教官 高橋 智
免疫担当細胞であるヘルパーT細胞(Th)は、産出するサイトカインによってTh1、Th2の二つのサブセットに分類でき、主としてTh1は細胞性免疫を、Th2は液性免疫を担っている。このTh1とTh2は、前駆体であるThpよりそれぞれ分化し、正常な体内ではそのバランスが保たれている。しかし、このバランスが崩れ、Th1に傾くと自己免疫疾患に、Th2に傾くとアレルギー疾患になりやすくなることが知られている。つまり、Th1、Th2のバランスにより、疾患に対する感受性が決定されると考えられる。
それではTh1、Th2分化はどのような分子に制御されているのだろうか。現在のところ、Th1、Th2の分化を開始する転写因子として、それぞれT-bet、GATA-3が挙げられている。Thpが抗原によって刺激され分化が開始し、T-betが優位になるとTh1に、GATA-3が優位になるとTh2に分化すると考えられている。加えて、これらの転写因子はお互いの発現を抑制し合う。つまり、T-betはTh2の分化を、GATA-3はTh1の分化を抑制することになる。(右図)
当研究室では、自己免疫疾患を自然発症するYaaマウスのT細胞特異的にGATA-3を過剰発現させたトランスジェニックマウス、VA GATA-3では、Th2が優位となり、自己免疫性の腎炎発症が抑制されることが明らかにされている。このことは、Th1が優位であるYaaマウスにおいて過剰発現したGATA-3が、Th1分化を抑制し、Th2分化を促進したことにより、Thバランスが改善され、腎炎発症を抑制したことを示している。それでは逆に、T細胞特異的にT-betを過剰発現させてTh1分化をより促進したYaaマウスでは、自己免疫性の腎炎が、より重篤になるという仮説が考えられる。そこで、本卒業研究では、この仮説を検証するために、VA T-betトランスジェニックマウスを作成することにした。
T細胞特異的なプロモーターを持つVAベクターに、T-bet cDNAを挿入して、T細胞特異的にT-bet cDNAが発現するコンストラクトを作成した。このコンストラクトを導入遺伝子としてBDF1マウス受精卵にマイクロインジェクションし、トランスジェニックマウスVA T-bet(BDF1)を作成した。
現在トランスジーンを持つ個体が8匹得られており、B6マウスとの掛け合わせ、T-betの発現の解析を行っている。
現在、トランスジーンはBDF1マウスに乗っているため、B6マウスとの掛け合せを続けて、B6のラインを作成する。トランスジーンのコピー数、胸腺における発現量を確認し、T-betの発現量の変化がTh1分化を促進しているかどうかを確認する。そして、自己免疫疾患を自然発症するYaaマウスと掛け合わせた後、自己免疫疾患性の腎炎の重篤度を評価していく予定である。