チャノコカクモンハマキにおけるフェロモン剤抵抗性の生物検定法

大鍋達郎                                          指導教官:戒能洋一

<目的>

チャノコカクモンハマキ(Adoxophyes honmai Yasuda)は、チョウ目、ハマキガ科に属し、主に茶樹の害虫として知られる。本種の性フェロモンは、Z9-TDA,Z11-TDA,E11-TDA,10-Me-DDA4成分混合物であり、その混合比は63:31:4:2であることが報告されている(Tamaki et al.,1971,1979)。このうちZ11-TDAは単独で交信撹乱効果を示し、フェロモン剤としてチャノコカクモンハマキの防除に用いられ、安定した効果を示してきた。しかし最近になって静岡県初倉地区において本剤の効果の低下が報告され(野口、1999)、交信撹乱に対し抵抗性を獲得した系統が出現したと考えられる。そこで、本実験では両系統を区別する簡便な生物検定法を確立することを目的に、両系統の反応を比較した。

<材料および方法>

1.材料:チャノコカクモンハマキは、東京農工大学から供与されたものを感受性(S)系統とし、交信撹乱効果の低下が報告された静岡県初倉地区から採取、増殖させた系統を抵抗性(R)系統として用いた。SR両系統とも人工飼料を用い、山谷・玉木(1972)の方法に準じて25±14070%R.H.16L-8Dの明暗周期のもとで人工飼育を行った。玉木ら(1969)Kainoh et a1. (1984)に基づき蛹の段階で雌雄に分け、羽化後3日目まで全明条件においた雄成虫を10個体ずつ200m1三角フラスコに入れて綿栓をし、9時間以上の暗条件付けを行った。また4成分混合フェロモンにはZ9-TDA:Z11-TDA:E11-TDA:10-Me-DDA=60:30:5:5をヘキサンで1.0μg/μlに調整したものを用いた。

2.生物検定:実験は25±1℃、5070%R.H.の条件下にて行った。条件付けを行った雄成虫の入ったフラスコに、前処理として交信撹乱成分であるZ11-TDA 1.0μgを処理した三角形のろ紙片(0.5cm×2.0cm)を投入し、その1分後に混合フェロモン1.0μgを処理したろ紙片を投入した。ろ紙片を投入する直前とその直後、さらに1,2,3,4分後にメイティングダンスを行った個体数を記録した。メイティングダンスは間欠的であり、正確な反応個体数を記録することは困難であるため、計数にあたっては同時に反応した最大個体数を記録した。対照区として、Z11-TDAの前処理を行わず、混合フェロモンのみを処理したものについても同様に実験を行った。各処理間の反応については、t-検定を用いて5%水準で統計処理を行った。

<結果および考察>

Z11-TDA前処理を行わなかった場合の混合フェロモンの処理直後の反応はS系統で90%、R系統で83%であり、両系統間に有意な差は認められなかった。しかし前処理を行った場合はそれぞれ10%、26%に抑制され、両系統間には有意な差が生じた。混合フェロモン処理後2分以降は有意な差が認められなかった。この結果より、両系統ともZ11-TDA前処理による撹乱効果が認められたが、S系統においてより強く反応が抑制された。一方、R系統では反応の抑制は起こるが、S系統ほどではないと思われる。したがって、この検定法により両系統間の区別は可能と考えられる。しかし、系統間の差は有意ではあるが大きくはなくR系統において野外のものより交信撹乱に対する抵抗性が低下していることも考えられる。今後の課題として、供試昆虫の飼育技術の向上、風洞を用いたより野外に近い条件での実験などが挙げられる。