フナムシの前大動脈における心臓動脈弁とその神経支配
大貫知美 指導教官:山岸宏
節足動物の甲殻類は開放血管系であるが、高等な甲殻類には発達した動脈系があり、心臓
から出た複数の動脈が細かく枝分かれして、さまざまな器官に行っていることが知られて
いる。最近になって、各動脈の心臓動脈弁の神経性および液性調節によって、体の各部へ
の血液循環が細かく調節されていることが明らかになってきた。しかしながら、心臓循環
系の統合的な調節機構の解明には、心臓と動脈の両者の調節機構の関連を明らかにするこ
とが必要とされる。近年、等脚類のフナムシにおいて心臓拍動機構や心臓調節機構が明ら
かにされてきたが、心臓動脈弁の研究は未だ行われていない。甲殻類における心臓循環系
の統合的な調節機構を知ることを目的として、フナムシにおける心臓動脈弁とその神経支
配について調べた。
材料と方法
主として下田および犬吠岬の海岸で採集したフナムシ(Ligia exotica)の成体(体長20-
36mm)を用いた。腹側を開き心臓以外の内臓器官を取り除いた標本を用い、心臓後方部か
ら染色液を注射することで、心臓内および動脈における拍動と血リンパの流れを観察した。
動脈弁の構造は、実体顕微鏡下での解剖による観察およびパラフィン切片(ヘマトキシリ
ンーエオシン染色、厚さ5-10μm)による組織標本を作成して調べた。動脈弁の神経支配
について、解剖標本をmetylene blueで生体染色することによって観察を行った。さらに
電気生理学的手法を用いて、動脈弁の神経支配を調べた。動脈弁に行く神経が走る動脈の
前方部を吸引電極で吸引し、電気刺激装置に接続して電気刺激を与えた。動脈弁の筋に微
小電極を刺入し、電気刺激に対する筋の細胞内電位応答を記録した。記録した細胞内電位
は増幅器を介して、オシロスコープに表示しながら、ペンレコーダーおよびデーターレコ
ーダーに記録した。
結果と考察
フナムシの心臓は胸部第6体節から尾部にいたる背側甲皮下の囲心腔中にあり、一層の
横紋筋からなる管状の器官である。心臓の後端は袋状に閉じているが、前方からは、頭
部に至る一本の前大動脈と、両側の側部前方にいたる一対の前側動脈が出ていた。また
体の両側に向かって心臓の両側から4対の側大動脈が出ていた。それらのいずれの動脈
においても心臓の開口部に心臓動脈弁が確認された。前大動脈に沿って一対の神経が頭
部から下降し、前大動脈および2本の前側動脈に神経分岐を送っていた。この神経を刺
激して、各々の動脈弁の応答を調べたが、まだ明確な結果は得られていない。