デイジーワールドモデルのIBM化

木原 孝志 指導教官:徳永 幸彦 責任教官: 藤井 宏一


はじめに
 デイジーワールドモデルは1970年代にJ. E. Lovelock博士らによって提案されたガイア仮説を説明するために考案された数理モデルであり、これまでに様々な研究がなされて来たが、空間の概念を導入した研究は殆んどなされて来なかった。そこで本研究ではデイジーワールドモデルをIndividual-Based Model(IBM)化し、オリジナル のモデルとの相違点、および局所的な相互作用の導入による影響に関して研究を行った。

デイジーワールドモデルの概要
 デイジーワールドモデルは異なる色を持つ2種のデイジーの生存競争のモデルである。2種のデイジーが地表を被う割合は時々刻々と変化する太陽の放射やデイジー自身の色に応じて変化する。2種のデイジーの比率の変化は惑星全体の色つまり光の反射率を変化させ、惑星の平均温度を変化させる。太陽光が弱い時は光を良く吸収する黒いデイジーが増え、太陽光が強い時は逆に白いデイジーが増える。その結果惑星全体の光の反射率や温度ははデイジーの生育に適した値に調節される。ガイア仮説は生物の働きにより地球の環境が自動的に生物の生存に適したものに調節されているという説である。上のモデルはその説を説明する為やどんな時に生物による環境の安定化が起こるのか調べるために用いられる。

モデルのIBM化
 今回の研究ではまずモデルのIBM化を行った。つまりオリジナルのモデルでは被度として表現されているデイジーの量を二次元の格子の中に住む数つまり個体数として表現し直した。又同じ色のデイジー全体で一括して扱われている個体数の増減を各格子中のデイジーの確率的な生殖や死亡の集まりとして扱った。次に局所的な相互作用の影響について調べる為にモデルに空間の概念を取り入れ、各格子のデイジーの繁殖率が自分と周囲のデイジーの色によって決まり、各色のデイジーの繁殖率がその平均となる様なモデルを考えた。

結果と考察
 空間は無視してIBM化だけほどこしたデイジーワールドモデルでは、ほぼオリジナルのモデルと似たデイジーの個体数変動や温度変化 が見られたが、繁殖率を確率的に捉えているため、格子数が少ない程オリジナルとのずれが現われた。局地的な相互作用を導入したモデルでは、オリジナルのモデルより強い温度の安定性が得られた。これはオリジナルのモデルにある惑星内の温度の伝わりやすさを強くした時と結果が似ていた。さらに、種子散布の距離に限界のあるモデルを考え、それについても考察した。