つくば市における訪キノコ性昆虫群集の構造

         窪田江美子         指導教官:齋藤隆史        

 

<導入>

キノコは栄養学的に見て昆虫にとっての優れた資源であり、双翅目、鞘翅目を中心とした多くの昆虫に餌資源および産卵場所として利用されている。同じ資源を利用する昆虫の間には競争があると考えられるが、キノコのような一時的、離散的に存在する資源の場合、多種の共存が可能であるとされる。その共存機構として、種によってタイプの異なる資源を利用する「資源分割」や優位種が一部に集合することによって劣位種に利用可能な資源が生じる「aggregation」などが提案されてきた。また、キノコの成熟段階によって利用する昆虫が異なることも報告されているが、ほとんどは断片的で定性的な観察に基づくものであり、キノコと昆虫の関係については未解明なまま残されている部分も多い。

本研究ではつくば市の実験植物園内に設定した調査区において、キノコの発生消長とそこに形成される訪キノコ性昆虫群集を調査し、キノコをめぐって競争関係にある複数種がどのような機構によって共存を可能にしているのか、その解明を試みた。

<方法>

筑波実験植物園内の落葉広葉樹林区画に25m×25mの方形区を設定し、その中でのキノコの発生状況とそこに形成される昆虫群集について調べた。キノコについては11回見回り、種名、成熟段階(未熟期、胞子分散期、老廃期の3段階に分類)、傘径、高さを記録した。また、キノコに集まっていた昆虫を捕虫網および吸虫管を用いて採集した。

産卵状況を調べるため、野外から採集したキノコを研究室に持ち帰り、プラスチック容器内に入れてそこから羽化した昆虫を毎日記録、同定した。プラスチック容器には湿らせたバーミキュライトを底に敷くことによって湿度を調整し、18℃から20℃に設定した恒温機内で保存した。

<結果と考察>

植物園の調査区からはキノコ23種、昆虫は28514個体が得られた。キノコの発生量は梅雨と秋に2回のピークが見られ、梅雨にはヒトヨタケ科、秋にはテングタケ科、ベニタケ科が優占した。植物園内は樹冠があまり発達していないため、夏から秋に晴天の日が続くとすぐに乾燥してしまい、キノコの発生期間も1週間以内と短いものが多かった。昆虫の個体数も調査の終わりにトビムシが大量発生したのを除けば、キノコの発生量とほぼ同じように変化した。また、地上徘徊性昆虫では、種によって発生量のピークにずれが見られた。

採集された昆虫の菌種選好性については、特に違いが見られなかった。調査地でのキノコの発生は不安定なため、広食性の方が有利であると考えられる。成熟段階と昆虫相の変化については、胞子分散期に多種の昆虫の利用がみられたが、胞子分散期の終わりから老廃期にはショウジョウバエのみ利用が見られた。また、利用部位をみてみると、キノコムシ、ハネカクシなどはひだの裏にもぐりこんでいるものが多く、ショウジョウバエをはじめ、双翅目昆虫は傘表面を利用していた。また、折れたり、他の昆虫による食害を受けた部分にショウジョウバエが集まっていた。

羽化個体については、1つの子実体から単独で羽化するもの、複数種が羽化するものがあり、いくつかのパターンが見られた。また、羽化までの日数にも種間でずれがあり、利用する時期、または羽化までに必要な日数を変えることで他種との競争が緩和されている可能性がある。