シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC6803によるヘモリシンホモログ産生

                  先山 哲史     指導教官:桑原 朋彦

<導入>

 シアノバクテリアは酸素発生型光合成を行う細菌で、そのうちSynechocystis sp. PCC6803(以下PCC6803)は全ゲノム塩基配列が解読され、光合成のモデル生物として様々な研究に用いられている。当研究室の先行研究によりPCC6803が銅結合性の細胞外タンパク質としてヘモリシンのホモログを産生することが示されている。ヘモリシンは感染性のものについてはよく研究されているが、独立栄養生物であるシアノバクテリアがヘモリシンのホモログを持つことは興味深い。そこで卒業研究ではPCC6803が産生するヘモリシンホモログを部分精製し、SDS電気泳動における異常挙動について研究を行った。

 

<方法>

 PCC6803を、3 um CuSO4を含むBG-11培地(2 L)を用いて30℃で光照射して通気培養した。Log phase終期(OD730=0.7)に遠心して上清をとり、ガラスフィルター(GF/F)、さらにNucleporeフィルター(ポアサイズ0.2 um)をもちいてろ過して除菌した。ろ液を透析チューブに入れポリエチレングリコール(PEG)をまぶし、冷室に起き一昼夜かけて濃縮脱水し、遠心(10000 rpm4℃、10 min)の沈澱を3 mlの蒸留水で懸濁し、PEG画分とした。

 

<結果と考察>

 PEG画分を常温でSDSを加えて電気泳動すると107 kDaに泳動された(lane 1)。しかし、SDSを加えて100℃、1 minの熱処理したものは173 kDaに泳動された(lane 2)。このことから常温におけるヘモリシンホモログの高次構造は、分子内水素結合により保持されていると考えられる。もしこの分子内水素結合が高温により不可逆的に切断されるなら、熱処理後にSDS処理しても173 kDaに泳動されるはずである。ところが熱処理後十分冷めてからSDSを加えると、熱処理しないものと同様に107 kDaに泳動された(lane 3)。よって、高温による分子内水素結合の切断は、SDS非存在下では可逆的であることが示唆された。また、熱処理直後にSDSを加えると173 kDaに泳動されることから(lane 4)、SDSは高温時の、分子内水素結合が切断された高次構造を固定することが示唆された。ヘモリシンホモログの構造変化は細胞外分泌のメカニズムとなんらかのかかわりがあると思われるが、詳細は今後明らかにしていく必要がある。発表会では上述の結果の他にヘモリシンンホモログの硫安による精製法や電気泳動移動度に対する熱処理温度や時間の効果について、また発現に対する銅ストレスの効果について報告する。