ハマキコウラコマユバチの揮発性植物成分に対する連合学習

980786 佐藤 誠
指導教官 戒能洋一

【背景と目的】
 寄生性昆虫の学習に関する研究は、近年活発に行われるようになってきた。その理由の一つが、害虫を宿主とする寄生性昆虫の学習能力を人為的にコントロールして寄生効率を高め、生物的防除の中で利用しようという試みである。
 ハマキコウラコマユバチは、茶の害虫であるチャノコカクモンハマキの卵-幼虫寄生蜂である。この雌蜂は、条件付け(トレーニング)によって植物抽出物を連合学習することが知られている。本研究は、茶抽出物に含まれる揮発性物質の合成混合物(ブレンド)を雌蜂が学習するのか、また個々の揮発性成分単独でも学習するのか否かを調べ、蜂の学習を人為的にコントロールする可能性を探るものである。

【材料と方法】
 トレーニングとして、茶抽出物の揮発性成分(単独または混合物)5μgを線上に処理し、その中央に宿主卵塊(0-1日齢)を置いたペトリ皿に、累代飼育したハマキコウラコマユバチ(3-4日齢雌成虫)を放ち、産卵開始後2分間経過したら蜂を卵塊から引き離す、という操作を30分のインターバルを挟みながら3回行った。次に生物検定として、同様に揮発性成分のみを処理したペトリ皿にトレーニング済みの蜂を放って3分間観察し、蜂が揮発性成分を処理したラインに沿って歩いた距離を測定して、学習効果の指標とした。
 使用した揮発性成分は、3-ヘキセン-1-オール、サリチル酸メチル、リナロール、ゲラニオール、ベンジルアルコールのそれぞれ1μg/μlヘキサン溶液、ブレンドはこれらの成分を等量ずつ混合した1μg/μlヘキサン溶液である。コントロールには溶媒のヘキサンのみを用いた。また、茶抽出物においても測定した。

【結果と考察】
 生物検定の結果、ブレンドはコントロールと比較して有意に値が高かった(表1)。また、ブレンドは茶抽出物を用いたデータと比較しても有意差はなく、ブレンドは抽出物と同等の学習効果を得られることが示された。ただブレンドの値は抽出物のものよりも若干反応が低く、これには抽出物に含まれる非揮発性物質などが関係していると推察される。
 各揮発性成分単独とコントロールとの間には有意差は見られなかった。また、各成分単独どうしの間でも有意差は見られなかったが、ベンジルアルコールはブレンドと比較して有意に値が低かった。これらの結果より、蜂は特定の揮発性物質単独よりも、混合物をより学習しやすいことが推察される。
 本研究によりコマユバチの揮発性植物成分に対する連合学習が確認された。今後は、より学習効果の高い合成混合物の組成を明らかにしていく必要があるだろう。

表1 ハマキコウラコマユバチの揮発性植物成分に対するトレーニングの効果

揮発性成分
N
歩行距離(cm)*
3-ヘキセン-1-オール
8
6.1±1.5 ab
サリチル酸メチル
8
8.5±1.9 ab
リナロール
7
12.3±3.5 abc
ゲラニオール
8
12.6±4.0 abc
ベンジルアルコール
6
3.7±0.7 b
コントロール(ヘキサン)
8
3.5±1.2 b
ブレンド
10
14.7±2.2 ac
茶抽出物
5
22.0±4.2 c

* Mean±S.E.。同じ文字が付いている数値間には有意差無し(P<0.05, Tukey test)