枯草菌タンパク質分泌経路で作用するSecタンパク質群とSRP系の相互作用
佐野 暁子 指導教官:中村幸治 責任教官:山根國男
【背景・目的】
新しく合成されたタンパク質が、細胞のどこに局在するかはそのタンパク質が十分な機能を発揮するために重要である。この局在化機構のひとつであるタンパク質の分泌経路は、タンパク質のシグナルの認識、膜へのターゲティング、膜の透過という3つの段階から成り立っている。真核生物ではRNA−タンパク質複合体であるシグナル認識粒子 (signal recognition particle; SRP) によりタンパク質は認識され、小胞体膜上へとターゲティングされることが分かっている。一方、原核生物では分泌タンパク質は、膜局在性の3つのSecタンパク質 (SecA,Y,E) からなる装置により細胞膜を透過することは分かっていたが、タンパク質の認識および細胞膜へのターゲティングについては不明であった。一方、原核生物においても真核生物のSRPの構成成分と相同なタンパク質であるFfhやRNA成分が発見され、原核生物においてはSecタンパク質群とSRP系による2つのタンパク質分泌経路が存在することが示された。原核生物である枯草菌においてもSecタンパク質群とSRP系の2つのタンパク質分泌機構が存在し、両者は相互作用して機能していることが示唆されてきた。特に、SRP系の主要因子であるFfhとSecAはどちらも分泌タンパク質のシグナルを認識することができるが、SecAのシグナル認識活性は単独では非常に低く、Ffhの存在下で増大することが明らかにされた。このFfhによるSecAのシグナル認識の促進機構には、FfhがSecAの構造変化を起こしている、あるいはFfhに結合した前駆体タンパク質がSecAへと引き渡されている、などの可能性が考えられる。これを検討するために、タンパク質を大量精製し、in vitroでの解析を行った。
【方法】
GST (Glutathione S-Transferase) との融合タンパク質として発現させる pGEXベクターに枯草菌のFfh遺伝子 (ffh) を導入し、大腸菌においてGST-Ffhを高発現させた。これをGSTに特異的に結合する樹脂であるGlutathione Sepharose 4B (GS4B) によって、アフィニティー精製した。また、枯草菌SecA高発現ベクターpTUE855を導入した大腸菌株から、硫酸アンモニウム分画し、ハイドロキシアパタイトカラムを用いてSecAを精製した。分泌タンパク質前駆体であるβ-lactamase 前駆体 (pBla) は、His-tagとの融合タンパク質として大腸菌内で高発現させ、Ni2+-NTA Agaroseによりアフィニティー精製した。精製したGST-FfhのpBlaおよびSecAとの結合能について検討した。アッセイはGS4Bに結合させたGST-FfhとpBla、あるいはGST-FfhとSecAとを混合し、15分間反応後、遠心してGST-Ffhと結合したタンパク質を回収し、ウェスタンブロッティング法により解析した。
【結果・考察】
混合液を遠心して回収したタンパク質にはpBlaが検出され、GST-FfhとpBlaは結合することが分かった。また、SecAについてもGST-Ffhと結合することが分かった。以上のことから、FfhがGSTとの融合タンパク質であっても、pBlaやSecAと結合できることが明らかとなった。現在、あらかじめGST-FfhとpBlaを反応させた混合液から、GST-FfhとpBlaの複合体を精製し、これにSecAを加え反応させ、pBlaの挙動を解析している。一度結合していたFfhからSecAへとpBlaが移動するのであれば、FfhによるSecAのシグナル認識の促進機構は前駆体タンパク質の引き渡しであると考えることができる。