■テトラゾリノン系除草剤fentrazamideによる植物細胞分裂阻害
発表者 | : | 980789 島岡 洋介 | 指導教官 | : | 松本 宏 |
<背景と目的>
fentrazamideは新規に登録されたテトラゾリノン系の薬剤であり、イネ科ヒエ族植物に対して
特異的に作用し、枯死させるが、その作用機構は明らかにされていない。先行研究では
細胞分裂阻害作用を引き起こす可能性が指摘されている。また、クロロアセトアミド系除草剤や
オキシアセトアミド系除草剤に似た作用機構を示すとも言われていて、長鎖脂肪酸(オレイン酸)の
延長反応阻害作用のために成長阻害を起こす可能性も指摘されている。
この研究は細胞分裂阻害作用、長鎖脂肪酸合成阻害の二方向からのアプローチが可能であるが、
本研究では細胞分裂阻害作用に注目し、fentrazamideの影響を調べた。
<研究内容>
1)生物試験
2)イネ科植物の根端細胞の「押しつぶし法」による観察の困難性
3)染色液の選定
4)薬剤の細胞分裂阻害作用の観察
1)生物試験
イネ、ヒエの幼植物体(1〜2葉期)を各濃度のfentrazamide(3×10-7M、10-6M、3×10-6M)に
茎葉部処理、根部処理し、処理6日後の新鮮重、乾燥重、三葉の葉身の長さ、新たに伸びた根の長さを
測定し、薬剤の作用を確認した。
*新たに伸びた根の長さを測るとは?
薬剤処理する直前に、根を基部から2cmの長さの位置ですべて切ってしまい、
処理後それよりも伸びている部分を測定した。
<結果>
イネ、ヒエには、種による感受性の差がほとんど見られない。
また、根は薬剤濃度が高くなるにつれて明らかに阻害されている。
2)イネ科植物の根端細胞の「押しつぶし法」による観察の困難性
イネ科の植物は、細胞同士が固く結びついているため、通常の押しつぶし法では
細胞が広がらず、観察が不可能である。そこで、
(1)加水分解時間を長くする
(2)ペクチナーゼ処理する
ということにより、押しつぶしによる観察を可能にした。
3)染色液の選定
細胞の種類や染色液の条件によって、細胞の染まりやすさが変わる。
最初、酢酸カーミン(アセトカーミン)を用いようとしたが、染色状態が悪いため、
加水分解時間を1時間として、シッフ試薬(cold Schiff)による染色(20分)を用いた。
4)薬剤の細胞分裂阻害作用の観察
この薬剤は、細胞周期のどの段階を阻害しているのか未解明であため、
薬剤処理後0、12、24時間後に細胞を観察し、細胞分裂の各段階(前期、中期、後期、終期)
の状態の細胞の比について計測した。
<結果と考察>
注)今回の実験では、タイヌビエの細胞が小さいため、
終期の細胞と間期の初期の娘細胞との区別がほとんどつかなかった。
前期、中期、後期の細胞は時間がたっても存在率がほとんど変わらないが、
終期の細胞(間期の娘細胞を含む恐れがある)だけが時間とともに増加している。
このことから、薬剤は以下の二つの作用のどちらかを示す可能性がある。
・薬剤は細胞が後期から間期に移る段階を阻害する
・薬剤は細胞が分裂期終了後に肥大成長するのを阻害する