ゼブラフィッシュを用いた
異物代謝酵素遺伝子の発現制御に関わる転写因子群の解析


高木 やえ子   指導教官:山本 雅之   責任教官:田仲 可晶


背景と目的
 化学発ガンの主因は、体内における親電子性物質の毒性発揮と考えられている。哺乳類では、これらの物質が細胞内に蓄積すると、一群の異物代謝酵素が大量に発現誘導され、毒性物質の代謝・排出を試みる。この誘導の根幹は、異物代謝酵素遺伝子プロモーターに存在する抗酸化剤応答配列(ARE)を介した転写活性化である。細胞が親電子性物質に暴露されると何らかの機構により転写因子Nrf2が活性化され、核移行後、小Mafとヘテロ二量体を形成してAREに結合する。ところが、AREには別の転写因子であるNrf1-小MafやBach-小Mafのヘテロ二量体が結合してその転写活性を制御することも知られている。各々の転写因子がどのように使い分けされているのか、あるいは拮抗作用がどのようになっているのかは興味深いところであるが、包括的な研究がなされていないのが現状である。一方、当研究室で、最近、ゼブラフィッシュのNrf2が単離されAREを介した異物代謝酵素遺伝子の誘導機構が魚類にも存在することが明らかとなった。ゼブラフィッシュは、個体レベルでの遺伝子発現や転写因子の解析に優れており、AREをめぐる転写因子群のグローバルな制御機構を明らかにするための格好の材料といえる。そこで、本研究ではゼブラフィッシュの小Maf、Nrf1、Bachの各cDNAの単離同定を試み、さらにはこれらを用いて転写因子間の機能的な相互作用を解析することを目指した。


図1. 異物代謝酵素遺伝子の発現制御


結果・考察
 まず、小Maf、Nrf1、Bachがゼブラフィッシュにも存在するかを検証するために、公開されているESTデータベースを利用してこれらに類似性を持つゼブラフィッシュ遺伝子を探索した。その結果、各々に高い相同性を示すESTクローンを見いだすことが出来た。そこで、PCR法により、各ESTクローンに相当する部分的cDNAを調製し、さらにこれをプローブとしてゼブラフィッシュ15-19時間胚もしくは一ヶ月幼魚のcDNAライブラリースクリーニングしたところ、それぞれの遺伝子に関して、全長ORFを含むcDNAクローンの単離に成功した。次に、塩基配列解析を行い、遺伝子産物のアミノ酸配列を推定した。その結果、全長にわたりマウス蛋白質と相同性を示す [ 小Maf(MafG 54%;MafF 56%;MafK 58%)、Nrf1 34%、Bach(Bach1 37%;Bach2 32%)]ことがわかったので、当該遺伝子をゼブラフィッシュmafT、nrf1、bach1と命名した。ここで興味深いのは、哺乳類蛋白質間の比較では似すぎているため見出せなかった、重要と予想されるペプチドドメインが浮き彫りになった点である。
 結論としては、本研究の成果により、魚類においてもNrf2に加え小Maf、Nrf1、Bachの、各ARE結合蛋白質が存在することが明らかとなった。現在これらが同一の細胞で共存する発生時期・組織を同定するためにin situハイブリダイゼーション法による発現解析を行っているので、その成果も併せて報告したい。