マウス組織でのシスチン輸送体の発現における細菌性リポ多糖の影響

田口久美子           指導教官 坂内四郎

 

背景と目的 哺乳類の細胞には、xc系というシスチン輸送系が存在する。この輸送系は、細胞外に存在するシスチンを細胞内のグルタミン酸との交換輸送によって細胞内に取り込むアミノ酸輸送系であり、12回膜貫通型タンパク質であるxCTと細胞表面抗原である4F2 heavy chain (4F2hc)の2つのサブユニットから成る。細胞内に取り込まれたシスチンは直ちにシステインに還元され、タンパク合成やグルタチオン合成に用いられる。グルタチオンはグルタミン酸、グリシン、システインの3つのアミノ酸から成る生体抗酸化作用物質であり、細胞内で呼吸や細菌貪食の際に発生する活性酸素種の消去を担う。培養細胞においてグルタミン酸、グリシンは細胞内に豊富に存在するがシステインの量は少ないことから、細胞内システインの量がグルタチオン合成の律速要素となっていると考えられている。しかし、システインは細胞外では酸化されてシスチンとして存在しているので細胞はシスチンを取り込む必要がある。このシスチンの取り込みを担っているのがxc系である。このように培養細胞において、xc系は細胞内グルタチオンレベルを維持するのに重要な役割を担っている。また、xc系は活性酸素などの酸化ストレスによって誘導されることが知られている。しかし、個体におけるxc系の発現についてはまだ詳しく調べられてはいない。そこで、本研究ではマウス個体におけるxCTの発現を調べ、さらに、酸化ストレスが関与する細菌性リポ多糖(LPS)投与による炎症モデルにおいてxCTの発現がどう変化するか検討した。

 

方法 610週齢のマウスの腹腔にLPSを投与し、3.5時間後または8時間後に組織を回収し、mRNAを精製した。また、対照として生理食塩水を投与したマウスについても同様にしてmRNAを精製した。精製したmRNADIGラベルしたxCTおよび4F2hcRNA プローブを用いてNorthern hybridizationを行い、xCT4F2hcのmRNAを検出した。また、in situ hybridizationによってxCTの発現部位を調べた。

 

結果と考察 controlのマウスでは、脳、胸腺、肺、脾臓、精巣でxCTの発現が見られた。なかでも脳、胸腺は強いシグナルを示した。しかし、肝臓、腎臓ではxCTの発現は見られなかった。LPSを投与したマウスでも、脳、胸腺、肺、脾臓、精巣でxCTの発現が見られた。controlと比較すると、特に胸腺についてシグナルの増強が見られた。また、LPS投与により脳でのxCTの発現も高まることが示唆された。4F2hcの発現はすべての組織において見られたので、xCTの発現が見られた組織ではxc系が機能していると考えられた。LPSの投与によってマウスは全身性の炎症を起こし、活性酸素の産生が亢進した状態になる。このような病態において、xc系の発現が増強されたことから、xc系が生体内の抗酸化機構においても重要なはたらきを担っていることが考えられる。