ウェルシュ菌のintergenic region(ORF外領域)における機能RNAの探索

980798:田島ゆかり     指導教官:清水 徹


【背景・目的】ウェルシュ菌(C. perfringens)は多様な毒素を産生し、その協調作用によって特徴ある病態(ガス壊疽)を形成する。細菌の二成分制御系として知られる VirR/VirS システムをはじめとする、ウェルシュ菌の病原性調節に関与する様々な因子を解析するため、我々の研究室において野生株strain 13の全塩基配列が決定された。得られたゲノム情報を解析することにより、ウェルシュ菌はORFのcoverageが他の細菌と比べて低く、ORFとORFの間の領域(intergenic region,IGR)長いことが明らかとなった。さらにIGRの領域には、タンパク質をコードせず、RNAそのものが転写調節因子として働くVR-RNA、virXといった機能RNAが存在することがこれまでの研究で明らかとなっている。また、他の細菌ではS. aureus のRNAといった転写調節RNAもすでに報告されている。これらのことから、ウェルシュ菌のゲノムにはまだまだ多くの機能RNAが存在する可能性が考えられたため、本研究では新しい機能RNA を同定することを目的としたスクリーニングを行った。  

 

【方法】まず、ウェルシュ菌野生株strain13のゲノム情報を解析し、これまでに機能RNAが発見されているIGR の例などから判断し、500bp以上のものをスクリーニングの対象とした。続いて、ウェルシュ菌野生株strain13を用いて対数増殖期初期から後期における全RNA を調製し、各IGR に対応するプローブを用いたノザン解析を常法に従って行い、IGRにおける転写の有無およびRNA転写量の時間的変化、サイズを確認した。次に、転写の見られたIGRに対して野生株とvirR変異株、およびvirR変異株にvirR遺伝子を相補した株を用いたノザン解析を行い、各IGRの転写に対するVirR/VirSシステムの影響を調べた。さらに、VirR/VirSシステムによって何らかの転写調節を受けているIGRに関しては野生株における過剰発現株を作製し、α-、θ-、κ-毒素遺伝子のプローブを用いたノザン解析を行い、毒素産生に対するIGRの影響を調べた。 

 

【結果】ウェルシュ菌ゲノム中で500bp以上の長さのある144のIGRにおいてIGR に対応するプローブを用いたノザン解析を行ったところ、53のIGRでそれぞれの領域に対応すると考えられるRNAの転写が確認された。それらのRNAには様々なサイズのものが存在し転写パターンも多様であったが、転写量の豊富なもの、対数増殖期の初期から後期にかけて転写量が増加するものが多く見られた。さらに、転写の見られた53のIGRに対して、virR変異株を用いたノザン解析を行ったところ、20のIGRでVirR/VirSシステムによる転写調節が確認されたが、そのうちの19個では正の、1個では負の調節を受けていることが明らかとなった。現在、VirR/VirSシステムによって転写調節を受けている20のIGRのうち11で過剰発現株が得られており、それぞれについて各毒素遺伝子の転写に及ぼす影響を解析中である。今後、残りのIGRについても過剰発現株の作製および、毒素遺伝子プローブを用いたノザン解析を行っていく予定である。