枯草菌新規低分子RNA、BS190 RNA、の機能解析
             築山宗央 指導教官:中村幸治 責任教官:山根國男

(背景)
枯草菌では、これまでに低分子RNAとしてscRNA、RNaseP RNA、およびtmRNAの三つの存在とその機能が明らかになっている。枯草菌は、日本、ヨーロッパ諸国を中心としたゲノムプロジェクトにより、その染色体の全塩基配列が既に決定され、全長4.21M base、約4100の遺伝子を持つことが明らかとなった。ORFの解析が進んでおり、大腸菌に比べ、遺伝子組み換えによる破壊株の作成が容易に行えるという点もモデル生物としては有用である。このような理由から新規低分子RNAの解析を進めやすいと考え、枯草菌を用いた研究が進められてきた。近年、RNAそれ自身のもつ機能が注目され、特に、500塩基以下のいわゆる低分子RNAが、真核生物、原核生物を問わず存在し、生命現象に深く関わっているというデータが数多く報告されてきた。
(目的)
私の所属する研究室では、枯草菌全RNA中からの新規低分子RNAの検索を行ってきた。その結果、大きさが190塩基の低分子RNAの存在が明らかになり、BS190 RNAと命名された。BS190 RNAは細胞内に多量に存在しているにもかかわらず、その欠損は細胞の増殖には大きな影響を与えなかった。低分子RNAの中には、単独では機能せず、タンパク質との複合体を形成して機能する例が数多く見られるため、BS190 RNAの機能を知る上で結合タンパク質を同定することは有効であると考えた。これまでの研究から、BS190 RNAの結合タンパク質の候補としてリボソームタンパクL11(RplK)が同定された。本研究では、BS190 RNAとL11との結合様式および結合条件等の検討を行った。
(方法)
BS190 RNAとL11が結合するかどうかを確かめるために、×6Hisタグ融合タンパク質としてL11の大量精製を行う実験系の確立を目指した。枯草菌L11タンパク質をコードするDNA断片をPCRで増幅し、発現プラスミドpQE60に連結した。作成したプラスミド上でL11遺伝子に六つのヒスチジンが付加されているかを確認した。作成したプラスミドをもつ大腸菌(M15 strain)をIPTG存在下で培養し、目的とするタンパク質の合成が誘導されていることを確認した。
Ni2+-NTAアガロースカラム樹脂に融合タンパク質を吸着後、イミダゾール処理を行い、Urea変性条件下で透析し、×6Hisタグ融合L11タンパク質を精製した。このL11タンパク質をSDS-PAGEおよびN末端解析により確認した。
(結果及び考察)
作成したプラスミドを保持する大腸菌より、
Ni2+-NTAアガロースカラム樹脂を用いることにより、予想される分子量とほぼ同じ大きさのタンパク質を精製することができた。このとき、得られたタンパク質は200・の培養で15μgであった。また、精製した×6Hisタグ融合L11タンパク質のN末端解析を行った結果、既に明らかになっている枯草菌L11タンパク質とほぼ完全に一致した。一方、BS190 RNAはin vitroで転写、合成し、放射性ラベルを行った結果、3.0×10^4cpmのラベルされたRNAが得られ、これを用いた。
(今後の予定)
今回精製した×6Hisタグ融合L11タンパク質と転写合成したBS190 RNAを用いてゲルシフトアッセイを行い、BS190 RNAとL11との結合を確認する。同時にL11の精製条件、量依存性等についても検討する。また、ノースウエスタンを用いて、ゲルシフトアッセイとは違った観点から解析を進める予定である。