チトクロムp450foxyの結晶化条件の検討
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氏名:
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戸谷 哲郎 |
指導教官:
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田仲 可昌 |
<目的>
糸状菌Fusarium oxysporumのチトクロムP450foxy (P450foxy) はP450還元酵素が融合した極めて珍しいP450である。その酵素活性は脂肪酸亜末端(ω-1〜ω-3)水酸化活性であり、分子活性は通常のミクロソーム型のP450に比べて非常に高い。我々は既に大腸菌宿主−ベクター系を用いたP450foxyの発現に成功しており、F.oxysporumより精製したP450foxyと組換えP450foxy (rP450foxy)との間には、触媒活性や分光学的性質において差異が無い事を確認している。F.oxysporumにおけるP450foxyの発現量は極めて微量であり、湿菌体重量 1.0 kgあたり100 μg程度であるが、大腸菌宿主−ベクター系を用いた場合その収量は湿菌体重量10 gあたり約100 mg程度のrP450foxyが調製できる。この成功はタンパク質の構造解析において非常に強力な武器となっているX線結晶構造解析への可能性を開いた。今までに、アミノ酸配列の改変なしに、膜結合性のP450のX線結晶構造が解かれた例は無い。それはP450の膜結合に必要な疎水性のアミノ酸配列が、P450の結晶化を極めて困難なものにしているためと予想されている。一方、P450foxyには膜結合性P450に見られる典型的な疎水性部分が存在しないにも関わらず、P450foxyは膜結合性のP450であり、その電子伝達系は真核生物のタイプである。もしrP450foxyのX線結晶構造解析が可能となれば、rP450foxyが医薬品の開発に必要なヒトや、哺乳動物、真核生物のP450のモデルとして非常に重要な貢献が可能となる。本研究ではこのrP450foxyを用いてチトクロムP450foxyの結晶化条件の検討を行った。 |
<方法>
rP450foxyを大腸菌で大量発現させ、遠心分離により菌体を回収した。菌体は菌体破砕用バッファー(下表参照)に懸濁後、フレンチプレスにより破砕し、破砕後、超遠心分離により未破砕菌体と無細胞抽出液に分けた。 |
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得られた無細胞抽出液をDEAE-cellulose (Whatman DE52) を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーにかけ、0.3 M KClの濃度勾配によりrP450foxyを含む画分を溶出・回収した。 |
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これに2',5'-ADP Sepharose 4B (Pharmacia Biotech)を用いたアフィニティークロマトグラフィーを行い、rP450foxyを含む画分を分離、溶出した。
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透析によりKClおよびNADPHを取り除いた後、再びDEAE-celluloseを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーを行い、得られたrP450foxyを含む画分を精製rP450foxyとした。精製過程のそれぞれの段階で、タンパク濃度およびP450濃度を測定して、精製表を作成した。また、精製サンプルをSDS-PAGE電気泳動に供し、得られたサンプルが精製されていることを確認した。 |
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精製されたサンプルをCrystal Screen(Hampton Reserch)を用い、Hanging Drop法により、rP450foxyの結晶化に必要な条件を検討した。 |
※菌体破砕用バッファー ・10 mM Tris・HCl (pH8.0) ・0.1 mM EDTA ・1 mM DTT( (±)-Dithiothreitol ) ・10% glycerol |
<結果と考察>
・(r)P450foxyのSpecific contentは純粋な溶液の時8.47(nmol/mg)となる。今回の精製では6.13を上回る精製物を得ることができなかった。 精製の途中でrP450foxyからヘムが脱落し活性測定値に表れていないrP450foxyが存在していることが原因として考えられる。 また、(r)P450foxyは比較的不安定で失活しやすいため、FPLC(Fast protein liquid chromatography)にかけることが困難であり、LPLC(Low pressure liquid chromatography)では精製と失活の速度の兼ね合いから、精製に限界がある。今後さらによい精製方法を検討したい。 |
精製表
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・今回の実験ではrP450foxyを結晶化できる条件は見つけられなかった。今後さらに結晶化の条件を検討する必要がある。 |