シェーグレン症候群におけるα-アミラーゼのT細胞エピトープ解析

980805 内藤 祐介 指導教官:住田 孝之

【目的】シェーグレン症候群(Sjogren's syndrome, SS) は,慢性唾液腺炎と乾燥性角結膜炎を主徴とし,多彩な自己抗体の出現をきたす自己免疫疾患である.病理学的には,唾液腺や涙腺などの導管,腺房周囲に著しいリンパ球浸潤を認めることから,組織特異的な自己抗原の存在が示唆されており,その候補の一つとして唾液腺型α-アミラーゼが報告されている.今回我々は,SS患者におけるα-アミラーゼ反応性T細胞のT細胞エピトープの検索を試みた.

【方法】 (1)HSG cell lineより抽出したヒト唾液腺型α-アミラーゼ遺伝子を鋳型とし,8種類の欠損蛋白遺伝子(Exon1:AA15-41, E1-2:AA15-90, E1-3:AA15-156, E1-4:AA15-233, E1-5:AA15-278, E1-6:AA15-319, E1-7:AA15-352,及びE1-8:AA15-392)を構築し,大腸菌発現系にて欠損蛋白を作成した(図1).これらを抗原として,健常者(4名)およびSS患者14名より分離した末梢血中単核球との共培養を行い,抗原特異的なT細胞の増殖応答をcell proliferation ELISA法にて検出した.(2)健常者を対象とし,Cell Surface Affinity Matrix Technology(CSAMT)を用いたより高感度な検出系の有効性を確認した.

【結果および考察】増殖応答の確認の結果,健常者ではいずれの欠損蛋白においてもT細胞の反応は認められなかった.一方,SS 患者においては,14名中6名においていずれかの欠損蛋白に対するT細胞応答が確認され,SS患者末梢血にはα-アミラーゼ反応性T細胞が存在する可能性が示唆された.しかしながら,図2に示すように,同一検体の培養well間(トリプリケイト)に結果の相違が認められたり,また,より広範な領域をコードする欠損蛋白を用いた場合にT細胞応答が消失するといった論理的に矛盾のある結果が得られた.これは,抗原反応性T細胞の存在頻度が低いために,各培養wellに均等配分されなかったことによるものと解釈可能である.そこで,より高感度な検出系であると考えられるCSAMTを用いた検出法を利用するためにその有効性を確認した.この方法は,細胞の表面にサイトカイン(IFN-γ)を捕捉する抗体を結合させることによってサイトカイン産生細胞を同定する方法であり,マグネティックビーズや蛍光二次抗体の利用により反応細胞の濃縮やFACSによる検出が可能である等の利点を有している.SEBやPPDを用いてT細胞の活性化を試みた結果,高感度に反応性T細胞の検出が可能であることが示された(図3).また,偽陽性・偽陰性の確認として,反応性T細胞におけるIFN-γmRNAの発現を単細胞レベルで確認したところ,偽陽性24%,偽陰性12.9%との結果が得られた.これらの結果より,CSAMTを用いた反応性T細胞検出法は高感度・高効率であると考えられた.現在,CSAMTを用いた反応性T細胞検出法により,SS患者末梢血におけるα-アミラーゼ反応性T細胞のエピトープ検索を行っているところである.