好アルカリ性Bacillus sp.#1011由来のCyclodextrin glucosyltransferase(CGTase)の広範囲なpH領域における活性発現のメカニズムの解析 

980808 野上 太司  指導教官 山根 國男

<目的>

 現在までに、高温、低温、高pH、低pH、高塩濃度、高圧などの極限環境に生息する微生物の存在が知られているが、これらの極限微生物が生産する酵素は極限条件においても機能する物が多くその応用に着目した研究が数多く行われている。

当研究室では、好アルカリ性Bacillus sp. #1011の生産するCGTaseについて、その構造と機能に関する詳しい解析が行われてきた。Bacillus sp. #1011は最適生育条件がpH10.5でアルカリpH領域で非常によく生育し、本菌が菌体外に分泌するCGTaseはpH4〜10という広範囲なpH領域で活性発現する。一方、至適pHが中性付近にあるB.stearothermophilus由来のCGTaseはpH4.5~pH7.5で活性発現し典型的なベル型のpH profileを示した。これらの違いは、好アルカリ性CGTaseが好アルカリ性菌の生育環境に合わせた特有の活性発現機構を備えていることを示唆している。そこで本研究の目的を本酵素の広範囲なpH領域における活性発現のメカニズムの解明とした。

<研究方法>

まず、CGTaseの触媒残基近傍に位置し、基質結合や酵素活性への影響が大きいと推定されているBドメインのアミノ酸配列を、好アルカリ性Bacillus sp.#1011由来のCGTaseとB. stearothermophilus由来のCGTaseで比較した。その中でもAsn158とTyr174は好アルカリ性CGTaseにのみ保存されていた。そこでB. stearothermophilus由来のCGTaseの158番目のThrをAsnに、174番目のAsnをTyrに部位特異的変異法により置換した。変異の導入はDNAオートシーケンサーを用いて確認した。変異が確認されたプラスミドは大腸菌ME8417(プロテアーゼ欠損株)に導入し、大量培養後、ペリプラズム画分の粗酵素をオスモティックショック法により抽出した。続いて、疎水性クロマトグラフィーにより酵素の精製を行って、変異体酵素を得た。さらにこれらの変異体酵素について、デンプン分解活性を指標として活性発現のpH依存性(pH profile)、pH安定性(pH stability)、温度安定性(temperature stability)などの酵素化学的解析を行った。

<結果と考察>

Bドメインの中でAsn158とTyr174は好アルカリ性CGTaseに特有なアミノ酸であり、部位特異的変異法を用いてB. stearothermophilus由来のCGTaseにこれらのアミノ酸を導入してT158NとN174Yを得た。これらの変異体酵素について酵素化学的解析を行った結果、若干の活性の低下が見られたが、pH安定性、pH依存性、温度安定性に大きな変化は見られなかった。

今回の研究で、T158NおよびN174Yの二つの変異だけでは広範囲なpH領域における活性発現を可能にすることはできなかったが、好アルカリ性CGTaseに特有なアミノ酸はこのほかにも多数存在している。今後は、今回注目したBドメイン以外のドメインにも着目し、本酵素の広範囲なpH領域での活性発現に寄与するアミノ酸を探索していく予定である。