植物プランクトンによって生産された有機物の分解過程

花町優次   指導教官 濱健夫

・目的

 これまで、海洋表層で生産された有機物の行方としては、主にバクテリアによる現場での分解と、大型粒子化した懸濁態有機物(POM)による深層への沈降除去が考えられてきた。しかし中緯度海域においては溶存態有機物(DOM)も、夏に表層に蓄積したものが冬の鉛直混合によって深層に輸送されることが考えられ、その重要性はPOMの沈降に匹敵するか、あるいはそれ以上であると思われる。このとき下方輸送に寄与するのは、月〜年の寿命を持つ準難分解性(S-)DOMであり、その有機物組成や生産、分解の過程を明らかにすることは海洋の炭素循環を解明するために重要である。本研究は植物プランクトンが生産する有機物を13Cでラベルし、その生産量や有機物組成、分解過程を調べることにより、その中のS-DOMの性質を明らかにすることを目的とする。

 

・方法

 2001424日、下田沖で表層水を採水し、サンプルの入った瓶に13CトレーサーとしてNaH13CO3を添加し、屋外のプールで24時間培養した。培養後、サンプルを21℃の暗所で179日間保存した。培養前と培養後の保存中に2Lずつサブサンプルを採取した。サブサンプルはWhatmanGF/F(孔径0.7μm)で濾過してPOMDOMに分画し、DOMは限外濾過器でさらに1kDa以上とそれ以下に分画した。DOC(溶存態有機炭素)濃度はHTCO法、POC濃度とその炭素同位体比、DOCの炭素同位体比は同位体比質量分析計(Delta plus)で測定した。培養前と培養後の各画分の濃度と炭素同位体比から培養中に生産された有機炭素の濃度の変化を調べた。

 

・結果

培養直後、生産された全有機炭素のほとんどはPOCであり、DOC4.5%を占めるのみであった (1)POC1週間で急速に減少し、それに伴ってDOCが増加した。しかし増加したDOCもすぐに減少した。このことから生産されたPOMの大部分はすぐに無機化され、DOMに変化した部分もすぐに無機化されてしまうことが示された。この“易分解性有機物”は生産された全有機炭素の80%前後を占めた。その後実験終了まで、POCはゆっくりと減少し、DOCはゆっくりと増加した。このことから1週間を経過しても残存するPOMはあまり無機化されず、そのPOMから変化したDOMも残存し続けたことが示唆された。179日目まで残った有機物を準難分解性有機物であるとすると培養中に生産された全有機炭素(POC+DOC)19.4%(6.3μgC/L)が準難分解性であり、その内訳はPOC7.6%DOC(つまりS-DOC)11.8%であった。また、DOCのうち、高分子が2.3%、低分子は9.5%であった。これらのことは低分子量のDOMが安定とされる、海洋における近年の観測結果と一致している。