蛍光ディファレンシャルディスプレイによる光周性花成誘導に関与する新規遺伝子の探索

              樋口洋平             指導教官:鎌田博  

【目的】
 植物は外界の環境変化に応答することによって発生・分化のプログラムを制御しており、特に生長相の移行のタイミングを決定することは植物にとって重要な問題である。花成は、栄養生長から生殖生長へと生長相を移行させる現象であり、主に日長変化によって制御されている。このように日長の変化によって花成が誘導される現象は光周性花成誘導と呼ばれている。これまでの研究より、光周性花成誘導は、内在性のリズムを作り出す生物時計によって制御されることが示唆されており、生物時計によって暗期の長さが計測され、適当な日長になると花成誘導物質が合成されると考えられている。しかし、その詳細な分子機構は未だ明らかになっておらず、全く未知の遺伝子が関与している可能性も十分考えられる。これらの疑問を解決するため、これまでにも様々な手法で花成誘導時に特異的に発現する遺伝子の単離が試みられている。しかし、これまでの研究に用いられている手法は検出感度や再現性に問題があり、未だ単離されていない遺伝子が存在する可能性が高い。そこで、本研究では、検出感度が高く、再現性が良い方法として、最近開発された蛍光ディファレンシャルディスプレイ法(FDD)を用い、花成誘導時に特異的に発現する遺伝子の単離を行い、その発現様式・機能を明らかにすることにより、光周性花成誘導の分子機構を解明することを目標としている。

【方法】
 実験材料としては、播種後7日目の芽生えの段階でも一回の短日処理によって花成が誘導でき、花成が光周性によって厳密に制御されているアサガオ・品種紫(Pharbitis nil cv. Violet)を用いた。播種後7日間、25℃、連続光下で生育させたアサガオに、花成誘導条件として暗期処理(16時間暗期)を行い、暗期開始から0, 8, 10, 12, 14, 16時間目に暗期中で子葉をサンプリングし、非誘導条件として連続光下で生育させた16時間目の子葉をサンプリングし、Total RNAを抽出した。抽出したTotal RNAは、Fluorescence Differential Display Kit(宝酒造)を用い、9種の末端蛍光標識oligo (dT)プライマーで逆転写し、24種の任意プライマーとの組み合わせでDD-PCRを行った後、ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、蛍光画像解析装置(Molecular Imager : BIO RAD)を用いて蛍光画像解析を行った。誘導条件において特異的に増幅が見られるバンドを切り出した。切り出したバンドは、通常、複数のフラグメントを含んでいるため、Rapid Selection System(宝酒造)を用いて目的クローンの精製を行い、塩基配列の決定及び相同性検索を行った。

【結果と考察】
 ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果、誘導条件と非誘導条件で発現の差が見られるバンドを140本検出し、ゲル回収を行った。さらに、2nd PCRを行い、再現性が得られたバンドは約8割であった。現在、これらのDNAを精製し、塩基配列の決定を行っている。本法では、oligo(dT)プライマーを用いているため、多くのクローンが3’非翻訳領域を含んでおり、既知遺伝子との相同性が見られなかったが、いくつかのクローンでは、転写因子との相同性が見られ、花成誘導との関連が期待される。単離した遺伝子について、ノーザンブロット法やRT-PCR法によって発現解析を行い、花成誘導に関与する可能性のある候補遺伝子を絞り込み、有望なクローンについては全長クローンを単離し、形質転換体の作出などによる機能解析を行っていく予定である。
 今後は、光周性花成誘導に関与するさらに多くの遺伝子を単離し、それらの機能や相互関係を明らかにする予定であり、光周性花成誘導機構の解明につながるものと期待される。