セプチンPnutl2によるヒト培養癌細胞のアポトーシス誘導に関する研究

 学籍番号 980819  福村 昭宏   指導教官 坂本 和一

≪導入・目的≫

 セプチン(Septin)は、分裂酵母から単離された細胞質分裂に関わるタンパク質の総称で、現在までに酵母からヒトに至る幅広い種で様々な分子種が存在することが確認されている。一般に、セプチンは細胞質分裂や細胞骨格形成に関与しているが、近年では小胞輸送やキチン質合成さらに癌化やアポトーシスにも関与しているという報告がなされている。セプチンは、アクチンやダイニン、フィブロネクチンなどの細胞骨格タンパクに重合して機能発現を行うばかりでなく、ホモポリマーを作って小環状フィラメントとしてシグナル伝達に関わるという報告もあり、セプチンの発現量や細胞内分布および重合形態の違いなどにより多種多様な生理作用を呈していると考えられる。本研究では、ヒトセプチンファミリーの一つであるPnutl2に着目し、その生理機能の解析を研究の大きな課題として扱っている。Pnutl2は、心筋細胞や神経細胞など細胞分裂が停止した細胞に特異的に発現するが、一方で、細胞分裂が盛んな精巣でも強い発現が認められている。すでに当研究室では、ヒト精巣のcDNAライブラリーからPnutl2とイソフォームのcDNAクローンの単離、同定に成功している。そこで本研究では、セプチンの癌抑制作用の可能性に着目し、セプチンによるヒト癌細胞のアポトーシス誘導作用とその作用メカニズムについて明らかにすることを目的とした。

≪方法≫

 当研究室で単離されたセプチンPnutl2のクローンPnutl2δ、Pnutl2θおよびPnutl2μの各プラスミド DNA を、Gene jammerを用いてヒトの肝癌細胞株HepG2に導入した。培養72時間後に細胞を回収してグルタルアルデヒドで固定し、Hoechst33258を用いて染色した後に蛍光顕微鏡により核の形態を観察した。次に、pEGFP-C1ベクターにPnutl2のORF領域を組み込んだGFP/Pnutl2融合プラスミドDNAを作製し、HeLa細胞に導入して72時間培養を行った。回収した細胞はパラホルムアルデヒドで固定し、染色による核の観察とGFP発光によるPnutl2の発現を蛍光顕微鏡により観察した。

≪結果・考察≫

 Pnutl2を導入したHepG2細胞では、コントロールに比べてHoechst染色による発色がより強く、核の凝縮や断片化が起こっているものが多く見受けられた。HepG2ばかりでなく、HeLaやHL60(ヒト急性骨髄性白血病細胞)およびNEC(ヒト精巣癌細胞)などの細胞についても、同様の結果が既に研究室で得られている。さらに、GFP/Pnutl2融合タンパク質を用いた実験により、Hoechst染色によって核の凝縮や断片化が観察された細胞では、全てGFPの強い発光が確認された。これらの結果より、Pnutl2およびそのイソフォームは、ヒト癌細胞のアポトーシスを強く誘導していることが明らかになった。現在は、Pnutl2によるアポトーシス誘導作用をより詳細に明らかにするために、PCR法を用いてDNAの断片化を解析し、さらにタンパクレベルではWestern blotting法を用いてCaspaseの酵素活性を調べている。