マウスミトコンドリアへの外来性性DNAの導入法の確立

船山智生

指導教官:中田和人

・背景と目的

ミトコンドリアはATP生産の大部分を担う細胞内小器官で、独自のゲノムであるミトコンドリアDNA(mtDNA)を有している。近年、mtDNAの突然変異が、ミトコンドリア病、糖尿病、神経変性疾患などの様々な病態の原因となる事が示唆されている。従って、人工的に外来性DNAをミトコンドリアに導入する技術は、このような多様な病態発症機構の解明や遺伝子治療法の開発はもとより、ミトコンドリアの生物学的機能を理解するためにも重要であると考えられる。しかしこれまで、大規模欠失突然変異型mtDNA(ΔmtDNA)を持つミトコンドリアを細胞質融合法を用いて、ミトコンドリアごと個体に導入する事はできても、外来性DNAだけをミトコンドリアに導入し、さらにこれを細胞、個体に導入する事は不可能であると考えられてきた。その原因として、1)導入する外来性DNAに複製・翻訳に関して機能的な問題がある可能性、2)ミトコンドリアに導入された外来性DNAの安定性の確保には何らかの安定化因子が必要であるという可能性、などが考えられている。

そこで、本研究では、これらの問題点を排除するために、マウス個体内でその複製・翻訳能を保持している事が既に確認されているΔmtDNAを外来性DNAとし、これをmtDNAを欠損させたマウスρ0細胞由来のミトコンドリアに取り込ませ、更にこれをマウス受精卵に導入する事で、マウス個体における外来性DNAのミトコンドリアへの導入の可能性について検証した。

・方法

 まず、ドナーの外来性DNAとしてΔmtDNAを当研究室の先行研究において既に作出されているmito-mouseMus musculus)の肝臓から粗精製した。次に、マウスρ0細胞Mus musculusからホストミトコンドリアを調整した。そして、エレクトロポレーション法を用いて、このドナーΔmtDNAをホストのマウスρ0細胞ミトコンドリアに導入した。このホストミトコンドリアは、もともとmtDNAを欠損しているため、導入されたΔmtDNAは既存のmtDNAと競合する事なく安定化因子を確保できると思われる。そして最終的に、このミトコンドリア画分をマイクロインジェクション法を用いて、C57BL/6J -mtspr(核はMus musculus 型、mtDNAはMus spretus 型のコンジェニックマウス)の受精卵に導入した。

 

 

 

 

 

 

 


結果

 PCR解析によって、エレクトロポレーションを用いてΔmtDNAをρ0細胞ミトコンドリアに導入できる事が確認できた。これまでに、このようなミトコンドリア画分を受精卵に更に導入して得られた出生個体に対するPCR解析を施行し、マウス個体におけるΔmtDNAの検出を試みているが、現在のところ外来性DNAであるΔmtDNAの検出には至っていない。継続的にこの操作と解析を繰り返し行うことで、マウス個体における外来性DNAのミトコンドリアへの導入の可能性について結論づけたい。