RNA転写開始点近傍における

ヒトとカニクイザルの遺伝子発現制御に関する比較解析

                  三浦 亜耶   指導教官 山根國男

 

<背景と目的>

 近年のゲノム研究の進展に伴い、種々の生物で遺伝子の構造と機能の解明が急速に進んでいるが、

ヒトの全体像を生物学的に理解する上で、ヒトと他の霊長類とを比較することは意義深い。

 本研究室の肥田らは、ヒトと他の霊長類との共通点、相違点を遺伝子レベルで明らかにすべく、

カニクイザル(Macaca facscicularis)の脳、心臓、腎臓、肝臓、精巣、皮膚などの組織から完全長cDNAライブラリーの作成をおこなった。さらに、約3万のワンパスシークエンスをおこない、得られたシークエンスデータを利用して、ヒトmRNAと翻訳開始コドン周辺配列の相同性、及び転写開始位置(TSS :Transcription start site)の分布様式について比較解析をおこない、

配列相同性は蛋白質コード領域(CDS)で97.8%5’非翻訳領域(UTR)で94.7%

TSSの分布様式は半数以上の遺伝子でよく保存されていたが、両種間で大きく異なっている遺伝子もいくつかある

ということを示した。

 本研究ではヒトとカニクイザルで転写制御様式に違いがある遺伝子の発見を目的とする。

 ヒトとカニクイザル間でUTRの配列相同性の低さとTSS分布様式に差が見られる遺伝子は、遺伝子発現制御に

何らかの違いがある可能性が考えられた。これはUTRの配列相同性が平均よりも極端に低い遺伝子は、ゲノム上で

さらに上流、すなわち遺伝子制御領域にあたる配列相同性の低さを考えることに基づく。

 UTRの相同性の平均94.7%に対して極端に低い遺伝子としてppp2r1aprotein phosphatase2 regulatory subunitA  alpha isoform)、mdhmalate dehydrogenase2,NAD)、TSS分布様式に差がなかった遺伝子として

albalbmin)、plpploteolipid protein1)を選び、これらの遺伝子について遺伝子調節領域の塩基配列の比較をおこなった。さらに、ルシフェラーゼアッセイにより、転写活性化能の実験的検証をおこなった。

 

<実験方法>

 遺伝子調節領域はcDNA配列をもとに、主な調節配列が集まるとされる転写開始点近傍からゲノム上で

上流約1000bp、下流200bpの領域のクローニングをおこなった。シークエンスによる配列の決定後、

Clustal Wでアラインメントし、配列の比較をおこなった。さらに、両種間の遺伝子調節領域の配列の違いが遺伝子発現調節活性に関係するのか調べるべく、ルシフェラーゼ遺伝子をレポーターとするベクターを構築し、

HEK293細胞にトランスフェクションし、48時間後にルシフェラーゼアッセイをおこなった。

 

<結果>

  遺伝子調節領域の配列の比較から、ppp2r1aは配列相同性がCDS98.7%UTR66.7%であるのに対し、

遺伝子調節領域(896bp)の相同性は88.5%であった。また、albについては、CDS 96.7%UTR 92.3%

遺伝子調節領域(1057bp)は93.4%の相同性であった。