ヤナギ根の活性に関与する因子の解析

                                           三代ななこ  指導教官:佐藤忍


【目的】
 温帯から亜寒帯地方に生育する多年生植物の多くは、冬季の環境に対する適応として、夏から秋に気候の変化を認知して休眠芽の形成を行う。休眠に関わる外的要因としては気温や日長、内的要因としてはアブシジン酸(ABA)やジベレリンなどの植物ホルモンの関与が示唆されている。
 一方、根は栄養塩類や水分の吸収の他、サイトカイニンやABAといった植物ホルモン、様々な有機物質の生産を行っており、植物体の成長・分化に大きな役割を持っていることが知られている。根の休眠については、冬季・夏季に成長停止すること、地上部の休眠解除に先立ち根が活性化することが報告されているが、その外的要因、内的要因、地上部との相互作用の有無等の知見は得られていない。
 本研究ではコゴメヤナギSalix serissaefoliaを用いて、根の活性に関与する外的因子及び内的因子を解明することを目的としている。コゴメヤナギが属するヤナギ科植物は、根と地上部の休眠が連動していること、また地上部の休眠誘導には短日条件が、解除には一定期間の低温が必要であることが知られている。本研究で用いるコゴメヤナギは、挿し木による水耕栽培が容易であるため根の成長のモニターに適していると考えられる。

【方法】
 長日条件(16時間明期/8時間暗期)、28℃、2000倍希釈ハイポネックス溶液、無通気で水耕栽培した挿し木3週間後のコゴメヤナギを、長日条件、短日条件(8時間明期/16時間暗期)、短日条件+低温(5〜20℃)といった条件下に移して、不定根および側根の成長速度を3週間以上連続測定した。根の長さの測定は、デジタルカメラのインターバル撮影により1日1回根を撮影し、デジタルキルビメーターを用いて行った。また、ジベレリン生合成阻害剤のウニコナゾール(10-4 M)またはABA(10-4 M)を葉及び芽に1日1回噴霧して、それらが根の成長に与える影響を検討した。
 また、カキやイネなどで日周変動及び季節変動を示すことが知られている「根木部電位(trans root potential:TRP)」を測定し、根の活性の指標とすることを試みた。水耕栽培のコゴメヤナギの茎に電極を刺し、電位の変動を1週間測定した。

【結果】
 インターバル撮影による測定では、地上部器官の休眠誘導条件である短日条件や低温下でも不定根、側根は成長を続けることがわかった。ウニコナゾールを地上部に投与したところ、地上部の伸長抑制とともに根の伸長が抑制され、新たな発根は観察されなかった。ウニコナゾール投与後のABAの投与によって、根の伸長はほぼ完全に停止した。これらのことから、水耕栽培のコゴメヤナギの根の活性は、気温や日長といった外的要因の影響をあまり受けず、ホルモンなどの内的要因が強く影響していると考えられた。
 TRPの測定では、イネなどで既に確立されている測定方法がコゴメヤナギにも有効であることが確認された。