ウキクサ類の生長に及ぼすCO2と温度の影響

望月久美子

指導教官  鞠子茂

 

背景

現在、CO2などの温室効果ガスによる地球温暖化が問題となっており、それに伴う植物や植生の変化が予想されるため、さまざまな植物に対する温暖化の影響が明らかにされてきた。しかし、水生植物を対象とした研究は極めて少ない。そこで、本研究では、ウキクサ類を対象として温暖化の影響を明らかにすることを目的とした。ウキクサ類は水田生態系の主要な雑草としても知られており、そこではイネと競争関係にある。イネへの温暖化影響はすでに明らかとなっているが、温暖化時の収量の変化を予測するには、競争関係にあるウキクサ類に対する温暖化影響も合わせて考慮する必要があり、この点からも研究が必要である。ウキクサ類はCO2施肥によって生長が大きく促進されることがすでに明らかにされている(Koizumi et al. 2000)が、昇温の影響は明らかになっていない。しかし、実際の温暖化の影響を推測するためには昇温とCO2濃度上昇の両方を考慮する必要がある。よって本研究では、(1)ウキクサ類の生長にとっての最適温度を明らかにし、さらに(2)高CO2と昇温の相互作用がウキクサ類の生長に及ぼす影響を解明することを目的として研究を行った。

手法

日本の主要なウキクサ類であるアオウキクサ(Lemna paucicostata)とウキクサ(Spirodela polyrhiza)を材料として、生長期間である6月〜7月に栽培を行い、終了後、葉面積とバイオマスを測定して生長を各処理区ごとに比較した。

1)昼間/夜間ともに5段階の気温差(15/10℃、20/15℃、25/20℃、30/25℃、35/30℃)をつけたグロースチャンバー内で両種を栽培した。

2)温度勾配型温室およびCO2・温度勾配型温室を用いて、対照区、2℃昇温区、2℃昇温+1.4CO濃度区の3ヵ所で両種を栽培した。

結果

1)アオウキクサの生長の最適温度はバイオマス、葉面積ともに20/15℃区にあり、特にバイオマスは高温になるにつれ急激に減少した。ウキクサの生長の最適温度は、バイオマスでは20/15℃区、葉面積では25/20℃区にあった。ウキクサでは高温による成長阻害がアオウキクサより小さかった。

2)両種において、昇温区でバイオマス、葉面積ともに対照区より小さくなり、昇温による生長へのマイナスの効果が見られた。特にアオウキクサでは昇温区のほとんどの個体が枯死した。また、CO2施肥による生長促進効果は両種とも見られなかった。

考察

ウキクサ類の生長の最適温度が比較的低温域(20℃前後)にあったことから、春や秋の気温が低い時期には、温暖化による昇温でウキクサ類の生長は促進され、先行研究のようにCO2による施肥効果も現れることが予想される。また、昇温により、春にウキクサ類が発生する時期は早まり、秋に枯死する時期は遅くなるため生長期間は長くなると考えられる。しかし、高温になる夏には、温暖化による昇温で更に生長適温から外れることになり、生長抑制の傾向(Rejma'nkova',1975a)がさらに顕著になると予想される。以上のように、温暖化に伴う昇温は、ウキクサ類の生長に対しプラス、マイナス両方の影響を与えると考えられる。

今回の実験ではCO施肥による生長促進が見られなかったが、これは、温室での栽培期間中が40℃以上(水温)とあまりに高温で、ウキクサ類の生長の最適温度から大きく外れていたためと考えられる。しかし、水田ではイネによる被陰や水の流出入により、今回の実験ほどには水温が上昇しないので温暖化時にはCO施肥による生長促進効果があらわれる可能性も考えられる。

寒冷でウキクサ類の生長期間が短い地域では、温暖化に伴う昇温によって生長期間が延長されると考えられる。一方温暖な地域では、温暖化に伴う昇温で夏の生長阻害がより顕著になり、その期間も延長されると予想される。また、高温耐性の差から、アオウキクサはより北に分布域を移し、南方ではウキクサが優占するようになると予想される。

今後は年間を通じて研究を行うことで、温暖化に伴う昇温の効果はプラスとなるのかマイナスとなるのか明らかにしていく必要がある。また、水中のCO2や栄養塩をめぐるウキクサ類と藻類の競争に温暖化がどう影響するのかも明らかにしていきたい。