マウスにおけるミトコンドリアDNAの組み換え機構解析の為の実験系の確立

980831 谷田部 桂介
指導教官:林 純一


[背景と目的]
ミトコンドリアはATP生産の役割を担う細胞小器官であり、その内部には独自のゲノムであるミトコンドリアDNA(mtDNA)が存在している。これまで、哺乳類のmtDNAは完全な母性遺伝様式によって遺伝するためにmtDNA間の組み換えは起こらないと考えられて来た。しかしながら、近年、マウスのmtDNA間で組み換えが生じる可能性が報告されてる。特筆すべきは、本研究室の先行研究において細胞質融合法を用いて作製した欠失突然変異型mtDNA導入マウス(mito-mouse)の組織から欠失突然変異型mtDNAと野生型mtDNAが連結した重複型mtDNAが検出された事である。
 そこで本研究では、マウス個体内でmtDNA間で組み換えが起こるか否かを検証するために、異種のマウス由来のmtDNAsを共存させ、両者が連結した重複型mtDNAの検出を試みた。

[方法]
 種の異なるマウスmtDNAsを同一個体内に共存させるために、C57BL/6J-mtspr(核はM. musculus型、mtDNAはM. spretus型のコンジェニックマウス)の受精卵の卵透明体下に、mito-mouseと同様の欠失突然変異型mtDNA(M. musculus型)を持つマウス培養細胞を脱核し、その細胞質をマイクロインジェクション法を用いて注入し、電気融合させた。つまり、このような胚操作によって誕生したマウスは、M. spretus型とM. musculus型のmtDNAsが同一個体内に共存する事となる。出生個体の各組織のmtDNAsをサザン解析において、新規にM. Musculus型の欠失突然変異型mtDNAとM. spretus型の野生型mtDNAが連結した重複型mtDNAが検出できれば、マウス個体のミトコンドリアにおいてmtDNAsの組み換えが起こる直接的な証明が可能となる。

[結果]
 現時点では、C57BL/6J-mtsprの受精卵に欠失突然変異型mtDNAを含むマウス培養細胞の細胞質体の導入を行っているが、目的とするマウスはまだ得られていない。胚操作マウスが誕生次第、各組織に含まれるmtDNAsのPCR、Southern解析を行い、マウス個体内でmtDNA間で組み換えが起こるか否かを考察する予定である。