ベニシジミ(Lycaena phlaeas LINNAEUS)雄の場所占有性

山口あんな  指導教官:斉藤隆史


(1) 導入・目的

ベニシジミは九州から北海道まで広く分布する普通種であり、年3化出現して幼虫で 越冬する種であるが、この種の成虫雄は縄張り行動を示す。そこで本研究では、ベニ シジミ雄が持つ縄張りに対して雌の行動からその質を評価することを目的とした。

(2)方法
5月に幼虫の食餌植物であるスイバへの産卵様式を調査した。さらに、大学構内には 3ケ所調査地を設置し、6、7月(夏)および10、11月(秋)にベニシジミ各個体に識 別のマークをつけ、それぞれの行動を9:30から16:30の間で記録した。

また、秋には1ケ所の調査地で密度の異なるスイバを植えたプランターを設置して行 動への影響を観察し、プランター設置調査地の植物密度および見通しと別の1ケ所の 植物密度を調査した。

(3)結果

スイバへの産卵は株当たり卵1個が全体の15%で最多であった。

夏に764匹、秋に188匹にマークし、それぞれ298匹、100匹を最低1回再捕獲した。調 査での分布型は雄では夏、秋ともに有意に集中分布をしていたが、雌では集中分布で あったが有意ではなかった。雄の行動範囲は1日当たりでは比較的狭く、数日間で 次々に停まり場を変える個体とほぼ一定区域にいる個体が存在した。

秋の野外実験ではよく利用されるプランターがほぼ決まっていた。しかし、植物密度 および見通しは観察された雄の個体数とは相関はなかった。

(4)考察

雄の停まり場は日毎に移動することも多く、1ケ所を複数個体が交代で利用するなど 流動的であり、厳密には縄張りとは言えない。また、夏と秋では夏に草刈りが行われ たためか秋の方が定住傾向が強かった。さらに、産卵場所との関係は観察例が少な く、明らかにできなかった。求愛行動はほとんどが雌に拒否されてしまっているが、 追飛行動の見られる区域内で観察されているので、停まり場は雄が雌を見つけられる 場所と考えられる。一方で、雌は雄に比べて再捕獲率がかなり低く、食餌植物である スイバへの産卵は株当たり卵1個であることから、産卵場所を求めて移動し続けてい ると考えられる。

また、行動観察において、停まり場として利用されたプランターでは周囲の草丈が低 いか、少ないように思われたので、停まり場の条件として見通しの良さを予想した が、相関は見られなかった。