シロイヌナズナのDs挿入変異体を用いた葉緑体形成に関する遺伝子の機能解析

                    指導教官名  鎌田博

                    学生氏名   山崎高紀

                    学籍番号   980834    

 葉緑体は光合成を行う細胞小器官(オルガネラ)であり、炭水化物、脂肪酸、アミノ酸などの主要な代謝産物を光合成からを元に生産されている。葉緑体は固有のゲノムを持ち、約100の葉緑体タンパク質をコードしている。しかし、葉緑体を構成しているほとんどのタンパク質は核ゲノムにコードされており、細胞質で翻訳されたあと葉緑体に運ばれる。葉緑体の全ゲノム塩基配列は1986年に決定されていたが、200012月、シロイヌナズナの核の全ゲノム塩基配列も決定された。これまで、葉緑体ゲノムにコードされている遺伝子の機能解析は進んできたが、核ゲノムにコードされている葉緑体タンパク質の遺伝子の機能は未知な点が多い。そこで私は、核ゲノムにコードされた葉緑体形成に関与する遺伝子の機能解析を行うことを目的として研究を行った。私の所属する研究室では、遺伝子の機能解析をするため、トウモロコシのトランスポゾンAc/Dsを用いたシロイヌナズナの遺伝子破壊系統を作成している。本研究・ ナは、その遺伝子破壊系統からアルビノ変異体、斑入り変異体が計5系統得られ、その原因遺伝子を決定した。変異体の原因遺伝子の1つは、イソプレノイド合成系の非メバロン酸経路で働く酵素をコードしていた。残りの4つは機能未知なタンパク質をコードしていた。

 また、葉緑体形成に関連する核遺伝子が、葉緑体ゲノムにコードされている遺伝子の発現に及ぼす影響を網羅的に解析するため、葉緑体遺伝子の発現についてマイクロアレイ解析を行った。マイクロアレイ解析には、シロイヌナズナの葉緑体にコードされている遺伝子のうち、tRNA及びrRNAを除く全ての遺伝子79種を対象とし、プローブDNAは遺伝子の全長又は一部領域をPCR法で増幅したもので、それらをスポットしたチップを用いた。今回は、私の所属する研究室のAc/Dsタグラインから得られ、既に原因遺伝子も分かっているアルビノ、黄緑色変異体における葉緑体遺伝子の発現の変化を調査した。サンプルは播種後10日目と3週間目の植物体を用いた。その結果、それぞれの変異体において様々な発現パターンの変化が観察された。この発現パターンの変化と、変異体の原因遺伝子の機能とを結びつけ葉緑体遺伝子発現について解析を行った。これらの発現データは葉緑体形成に関わる機能未知の核遺伝子の機能解! 析を行う上で、有用な情報を提供すると考えられる。