プロスタグランジンE2受容体サブタイプEP4(EP4)の機能解析:腎臓傍糸球体細胞特異的EP4過剰発現マウスの作製

生物学類:清水優子

指導教官:八神健一

 

【背景と目的】高血圧を含む循環器疾患は先進国において死亡率の高い疾患であり、高血圧罹患者の多くはポリジェニックな高血圧に分類されている。私たちの研究室ではポリジェニックな血圧調節を理解するためマウス血圧量的形質遺伝子座解析(QTL)を進めている。現在までにマウスの血圧調節に関わる7個のQTL(Bpq1〜Bpq7)が同定された。なかでもBpq6(第15染色体、0-30cM)は3つのマウス血圧QTL解析において共に同定された興味深い血圧QTLであった。この領域には血圧に影響を与える可能性のある遺伝子が幾つかマップされていた。EP4はその候補遺伝子のひとつである。しかしながら、血圧に対する詳細な機能解析は未だ報告されていない。

EP4はプロスタグタンジンをリガンドとするG蛋白質共役型受容体であり、細胞内のcAMP産生を促すことが知られている。最近、EP4がレニンを産生する腎臓の傍糸球体細胞において発現することが確認された。昇圧因子の律速酵素であるレニン遺伝子の発現にはcAMP産生促進が重要であることが報告されている。そこで私は腎臓傍糸球体細胞におけるEP4の機能解析を行うため、卒業研究において傍糸球体細胞特異的にEP4が過剰発現するトランスジェニック(Tg)マウスの作製を試みた。

 

【方法】外来遺伝子の構築:EP4を腎臓傍糸球体細胞で発現させるため、マウスレニン1遺伝子制御領域下流にイントロンを挟みマウスEP4のcDNAを連接、さらにその下流にポリA断片を融合した全長9kbの直鎖なmRen1/EP4遺伝子を導入遺伝子として用いた。Tgマウス作製: C57BL/6マウス受精卵を用い、常法にて行った。Tgマウスの検出:ゲノムに挿入されたmRen/EP4はPCR及びサザンハイブリダイゼーション法により解析した。Tgマウスにおける遺伝子発現解析:mRen/EP4遺伝子発現はRT-PCR法により行った。

 

【結果および考察】mRen/Ep4マウス作製:合計490個の受精卵前核にmRen/EP4を導入した。結果68匹のマウスが誕生し、PCR解析を行ったところ10個体(#6, 14, 21, 47, 48, 50, 53, 55, 59, 68)においてmRen/EP4がゲノムDNAに挿入されていることが確認された。ファウンダーにおける導入遺伝子のコピー数の検討はサザン解析により行い、各ファウンダーにおいて複数の遺伝子が挿入されていることが確認された(#6および14は未検査)。

Ren/Ep4マウスにおける次世代への導入遺伝子移行:9匹のファウンダーにおいて繁殖を行った結果、現在のところ5匹のファウンダーにおいて子孫が得られた。

子孫におけるTgマウス検出率は#50が33%、#53が15%、#55が57%、#59が 75%、#68が38%であった。#50、53、55、68については遺伝子が染色体上の一箇所に挿入、#53は複数部位に挿入されている可能性が示された。

Ren/EP4マウスにおける導入遺伝子発現:子孫が得られた5匹のファウンダーより腎臓のRNAを抽出し、RT-PCRにてmRen/EP4発現を検討した。#50および55においてスプライシングされたmRNAから増幅されたと思われる293bpのDNA断片が検出され、これらマウスの傍糸球体細胞においてEP4が過剰発現していることが期待された。

 

【今後の予定】mRen/EP4マウスの組織学的解析(in situ等)、生理学的解析(血圧、レニン活性等)、薬理学的解析(リガンドに対する作用等)を予定している。