篠崎 一雄 客員教授
理化学研究所, ライフサイエンス筑波研究センター,植物分子生物学研究室 主任研究員
SHINOZAKI Kazuo
Tel: 0298-36-4359
Fax: 0298-36-9060
E-mail: sinozaki@rtc.riken,go,jp
研究領域:植物分子生物学
研究テーマ:
1、高等植物での環境応答の分子機構
2、モデル植物の遺伝子とゲノムの機能解析
研究の概要
植物は環境の変化に応答し、適応する生理機構を進化の過程で獲得してきたものと考えられています。植物では環境の変化に対抗して個体レベル、組織レベルあるいは細胞レベル、さらに遺伝子発現レベルでも植物は環境変化に応答することが明らかにされつつあります。当研究室では乾燥、低温などの環境ストレスによって誘導される遺伝子群の機能と発現制御、さらに環境刺激から遺伝子発現に至るシグナル伝達経路について分子レベルで明かにすることを目的としています。さらに植物の環境応答や環境適応のシステム全体を分子レベルで理解することを目標に研究を進めています。
1)乾燥ストレスにおける遺伝子応答の制御機構
ゲノムサイズの小さいモデル植物のシロイヌナズナを材料に乾燥処理により誘導される遺伝子を50種類近くクローニングしました。乾燥ストレスにより誘導される遺伝子群の機能には非常に多様性があり、これらの遺伝子産物の協同作用により乾燥から細胞が保護されていると考えられます。乾燥ストレスによって誘導される遺伝子の発現制御は主に転写レベルでなされていることが示されました。ストレス応答に関与する転写調節因子、特に転写調節領域のシス因子に関しては塩基配列レベルで同定してきました。とくに乾燥、塩、低温ストレス応答にDREと命名した9塩基の配列(TACCGACAT)が重要な役割を果たしていることを示しました。またこのようなシス因子に結合するDNA結合タンパク質のクローニングを進めています。乾燥ストレスによる遺伝子の発現誘導には、少なくとも4つのシグナル伝達系が関与する複雑な応答をしていることが明らかになりました。植物は複雑なシグナル伝達経路をもつことで複雑な生理的応答を行なっているものと考えられるようになりました。
2)環境シグナルの細胞内情報伝達
環境刺激がどのように細胞内に伝えられ、遺伝子の発現を制御しているのか、そのシグナル伝達系を明かにすることが、現在の植物分子生物学の重要な研究課題の一つとなっています。植物の系でもタンパク質のリン酸化がシグナル伝達に重要な役割を果たしていることが知られています。またカルシウムやリン脂質などのセカンドメッセンジャーだけでなく、植物ホルモンが環境シグナルの伝達因子として働いています。我々の最近の研究から植物では動物と異なりシグナル伝達に関与するプロテインキナーゼなどの因子の遺伝子の発現が環境刺激により直接影響を受けていること、乾燥ストレスのシグナル伝達系にはMAPキナーゼカスケード、カルシウムやリン脂質をセカンドメッセンジャーとするカスケードが関与していることが明らかになりました。
3)モデル植物のゲノムと機能遺伝子の解析
モデル植物であるシロイヌナズナのゲノム解析と植物の遺伝子の機能解析を進めています。21世紀はじめにはシロイヌナズナのゲノムDNAの全塩基配列が決定され、植物の遺伝子はすべて構造が明らかになります。そこでシロイヌナズナの機能遺伝子の発現を系統的に解析し、さらにトランスポゾンなどを用いて挿入変異体を作成し、環境応答や発生、分化に関わる多くの植物遺伝子の機能を系統的に解析したいと考えています。

参考文献
1) 篠崎一雄、環境応答戦略:厳しい自然環境に適応する植物ゲノムの知恵。ネオ生物学シリーズ 7 「植物、不思議な世界」、美濃部編、p49−62,共立出版
2) Shinozaki, K. and Yamaguchi-Shinozaki, K. (1996) Molecular responses to drought and cold stress. Current Opinion in Biotechnology. 7, 161-167.
3) Mizoguchi T., Ichimura K., and Shinozaki K.: Environmental stress response in plants: the role of mitogen-activated protein kinases (MAPKs). Trends in Biotech., 15, 15-19 (1996).
4) Yamaguchi-Shinozaki, K. and K. Shinozaki (1994) A novel cis-acting element in an Arabidopsis gene is involved in responsiveness to drought, low temperature, or high-salt stress. Plant Cell 6, 251-264.
5) Mizoguchi, T. et al. (1996) A gene encoding a mitogen-activated protein kinase kinase kinase is induced simultaneously with genes for a mitogen-activated protein kinase and an S6 ribosomal protein kinase by touch, cold, and water-stress in Arabidopsis thaliana. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 765-769.