つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2002) 1: 112-113.

特集:生物学類の社会貢献事業

連携的科学技術・理科教育推進事業(サイエンス・パートナーシップ・プログラム事業)先行的調査研究の実施

宮崎 淳一 (筑波大学 生物科学系)

 去る8月28・29日にサイエンス・パートナーシップ・プログラム事業の先行的調査研究として、茨城県高等学校教諭を対象に実習を行ったので報告する。これは、文部科学省の「科学技術・理科大好きプラン」の一貫として、学校と大学、公的研究機関、民間企業との連携により先進的な科学技術教育、理科・数学教育などを実施するにあた り、そのための先験的な実施及びこれに基づく調査研究として行ったものである。

 経過としては、7月中旬に知人の茨城県高等学校教諭から直接私に、筑波大学生物学類において先行的調査研究として茨城県高等学校教諭対象の実習を行うことが可能か否か打診があった。学類長に相談したところ、そのような社会貢献に関わる事業には積極的に取り組むよう指示があったので、その旨を連絡した。一方、茨城県教育庁高 校教育課から筑波大学事務局に同様の要請があり、生物学類では既に要請を受け入れる予定であることを報告したところ、7月下旬にそのまま継続することを依頼された。私は生物学類から、この実習の適任者を推薦してもらうつもりであったが、依頼が正式にあったのが夏休み中のしかも7月末であったため、なりゆき上実習を担当することになった。

 先進的な科学技術に関連し、しかも私の研究室で可能なこととして、現在巷で話題のヒトゲノム解析とポストゲノム時代の課題にからめて、DNA配列決定法と蛋白質の2次元電気泳動を行うことにした。実習のスケジュールは下記のとおりで、本来は1週間ほどかかる内容を2日間に集約した。そのため、準備は約1週間前から本格的に行った。テーマは「深海生物の進化:生物の系統解析−DNA塩基配列の決定法と蛋白質の2次元電気泳動法」と した。あまり技術面を強調しても、興味をひかないと考えたことと、実際に当研究室ではこの技術をどのように活用しているかを特に講義で解説することをねらった。

サイエンス・パートナーシップ・プログラム事業 Bコース日程:2002年8月28・29日

28日(水)
  • 10:30−11:30 講義
  • 11:30−12:00 DNA実習1(シークェンス反応)
  • 12:00−13:00 昼食
  • 13:00−14:30 蛋白質実習1(等電点電気泳動用ゲルの調製)
  • 14:30−15:00 蛋白質実習2(等電点電気泳動)
  • 15:00−16:00 DNA実習2(DNA精製)
  • 16:00−17:00 DNA実習3(電気泳動)
29日(木)
  • 9:30−12:00 蛋白質実習3(SDSポリアクリルアミド電気泳動)
  • 12:00−13:00 昼食
  • 13:00−13:30 DNA実習4(PCR)
  • 13:30−14:30 DNA実習5(データ解析)
  • 14:30−15:00 蛋白質実習4(蛋白質の固定)
  • 15:00−16:30 講義
  • 16:30−17:00 実習まとめ

 参加者は茨城県各地の高等学校の教諭11名であった。この先行的調査研究について、高等学校へはお盆前によう やく通知が届いたそうで、電話連絡などによって有志が集まったようである。マイクロピペットの使い方から指導 しなければならず、最初はどうなることかと思ったが、参加者は非常に積極的で、実験の手順を理解するのも早く、 納得するまで質問をするなど、非常にやりやすくまたやりがいのある実習であった。生物学類出身の教諭も1名参加しており、このような機会に再会できることはうれしいかぎりであった。ただ、深海生物の系統解析を行うこと が(人類のためには)何の役に立つのかという質問には多少辟易した。現在の高校教育がすべて役立っているのかと逆に質問をしたいくらいであった。

 茨城県教育庁高校教育課からは、「参加した本県の教員も、最先端の科学技術の一端に触れることができ、大変好 評でありました。今後の生徒への教科指導で、大いに役立てるものと深く感謝を申し上げる次第でございます。」との礼状をいただいた。今回はあくまでも先行的調査研究であり、依頼されてから実習の実施まで約1カ月しかなく、 必ずしも十分な準備ができたとは言えないので、今回の実習がどのように評価され、またサイエンス・パートナー シップ・プログラム事業が本格的に始動するか不明である。しかし、今後この事業が推進される際に考慮しなけれ ばならない点として、大学と高校の両者が都合が良い時期というのは、実際には夏休みと春休みしかないと思われ るが、10名以上の実習を行うには学類の実験室を借りるしかないにもかかわらず、今回のように夏休みでは冷房が ないのでかなり厳しい。また、高等学校の生徒を対象とした実習をさらに行う予定があるそうで、その場合には実習内容を熟慮しなければならないと思う。

Contributed by Junichi Miyazaki, Received September 17, 2002.

©2002 筑波大学生物学類