つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312TK1.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

藏本武照 センター長 挨拶(抜粋)

藏本 武照(筑波大学 下田臨海実験センター長)

 学長に続きまして現地の運営者の立場で、ご挨拶申し上げます。本臨海施設では、70年間一貫して、生物学や地理地学の内、その土台をなす伝統的分野の実地教育と基礎的研究が行われ、学究の場として重要な役割を果たして参りました。ここ20年間のセンター利用者は、年平均で延べ約6千人でした。研究で約4千人、教育で約2千人でしたが、お陰様で、臨海実習などの経験をもつ多くの人材が巣立ち、現在、多方面で活躍しております。また、下田を拠点とした研究がもとで、学会賞などを受けた優れた研究成果が多数出ております。

 ところで、大学センターになってから既に30年で、「鍋田の筑波大学」と云うとタクシーは間違いなく直行してくれます。皆さん、専任教官が3名しかいませんが、ここは本当に大学です。前に云いましたように年間6千人の学生や研究者が出入りしております。伊豆半島には大学が無い、下田には大学生がいないと云う人がいますが、鍋田に筑波大学があり、うちの学生がお宅に御邪魔して家庭教師をしています。また、センターの門を一歩入れば、世界に通用する研究や教育がなされているのです。大学にも色々ありますが、大学はどんな所かを知りたい時は、先ず、ここに来て見て下さい。世間の常識とは違った世界があることに気付かれることでしょう。

 生きた化石と云われるカブトガニや群体をなすホヤを用いた研究成果は学会賞に輝いていますが、ここで行われました。この分野の研究は、今も、新しい視点で続いております。生きたカブドガニが水槽にいますので、カブトガニの陳列標本と合わせて見て行って下さい。

 また、1950年代より心臓に関する比較生理学の研究が欧米に先駆けて、ここで始まりました。これに因んで1991年に国際会議を開催しました(下図は記念出版の表紙)。同窓者達は、心臓・循環系に関する比較生理学の分野で先導的地位を維持しており、学会の重責を担っております。

 植物の分野でも、海藻の分類と生理・生化学・生態学の研究で、先がけの役割を果たしてきました。その研究成果を基にして、海洋環境の保全を担っている海藻の役割を広く市民に理解してもらう啓蒙活動を開花させました。最近は、動物と植物が織りなす浅瀬の生態系に着目した研究を進めております。この生態系が海洋環境の保全に重要な役割をしているからです。海洋汚染は、全生物の生存に関わる問題ですが、伊豆の観光資源を損ない、本センターの存在価値を低めますので、近隣の市民や漁民の皆さんと協力して海と沿岸の良い環境を守って行きたいと思っています。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類