つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2: TJB200312TM.

特集:下田臨海実験センター設立70周年記念

牧岡 俊樹 筑波大学生物科学系元教授

(元下田臨海実験センター講師、元生物学類長、動物系統分類学)

・・・当時の先生たちの教育方針というのは、大体、あまり束縛をしない。「自分の考えで自由にやりなさい」というような方針であったと思うのです。私も関口先生に、イソカニムシの生活史を調べてごらんなさいというテーマをいただいた。それは大きなテーマでして、いろいろな切り口があるわけです。それを自分で考えないといけない。

・・・イソカニムシ(下の写真)というのは変な虫でして、卵を産むのですけれども、その後で、ミルクを与えて育てるのですね。一種の保育をします。そのミルクがどこからできるのかというと、卵を産んだ後の卵巣でできるのです。卵を産んだ後はミルクを作る。ミルクを作り終わると、つまり子供が育ち終わると、今度は次の段階の卵が育ち始めるという、二つの機能が代わりばんこに卵巣で出てくるのです。それが非常に面白くて、それを中心テーマとして追いかけていきました。

・・・動物界には約30の門があります、原生動物から始まって脊椎動物まで。その約30の門の、ほとんど全部の門の代表が海にはいる。魚もいれば、貝もいれば、エビ・カニもいれば、あるいは原生動物、夜光虫のようなものまでいる。そのような多様な世界を海は持っているわけです。それを私は長年の間、下田臨海実験所の所員として臨海実習のお手伝いをする、あるいは自分が指導をするというようなことを通じて見る機会がありました。これは私にとって大変重要な、後に筑波大学で講義をすることになった動物系統分類学の基礎を作る、生きた知識の蓄積になったと思います。

・・・臨海実験所というのは、海の生物を研究する基地である。その原点を忘れてはいけないだろうと思うのです。世界中の優れた研究者が争って「そこで研究をやりたい」と言って集まってくる、そのような基地の役割というのが、やはり日本の臨海実験所にもあってほしい。そのようなものがあって初めて、独立法人化の荒波に負けないほどの存在価値が出てくるだろう。そのような気がいたします。

Contributed by Taketeru Kuramoto, Received October 21, 2003, Revised version received October 28, 2003.

©2003 筑波大学生物学類