つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 101     (C) 2003 筑波大学生物学類

ヤドリバエDrino inconspicuoidesの産卵行動について

石野依利子(筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:戒能洋一(筑波大学 農林学系)


 

[導入]

ヤドリバエは、農業害虫に対する天敵として重要であり、過去実際に生物的防除への利用が試みられた経緯もある。生物的防除を行うためには、用いる昆虫種の基本的な生態を知ることが不可欠である。ヤドリバエ科の一種であるDrino inconspicuoides (以下Drinoと省略)は、鱗翅目幼虫体表に産卵する広食性内部寄生性昆虫である。本研究では、Drinoの生態のうち、産卵に関する部分を明らかにすることを目的とし、雌個体の産卵消長ならびに産卵行動を調査した。

 

[材料・方法]

飼育と実験はすべて25℃、湿度60%(±5%)条件下で行い、明暗周期は16L−8Dとした。Drinoの飼育と実験は、すべて透明プラスチックケース(16cm×27cm×17cm)で行った。羽化した個体は、交尾のために48時間は雌雄同じケースに入れ、その後雌のみを別のケースに移した。

・寄生者と寄主

寄生バエであるDrinoは、20027月に畜産草地研究所(茨城県つくば市)敷地内で採集したアメリカシロヒトリ幼虫より脱出したものをもとに継代飼育した。成虫には蒸留水と角砂糖を与えた。また、飼育および実験のための寄主としては終齢のアワヨトウ(Mythimna separata)幼虫を与えた。アワヨトウは人工飼料(シルクメイト)を与えて飼育した。

・産卵消長

1個体ずつをそれぞれ別のケースに入れ、毎日3個体ずつの終齢アワヨトウ幼虫を寄主として与えた。寄生されたアワヨトウは、1日後にプラスチックシャーレ(直径9cm)に移した。アワヨトウより脱出したDrino幼虫数を記録し、各日齢のDrinoの産卵数とした。

・産卵行動

実験に使う雌個体は、目的とする日齢(812日。産卵消長の結果より)に達するまで寄主を与えずに飼育した。目的の日齢に達した雌は、終齢アワヨトウ10個体を入れてある実験用のケース(前述)に一個体ずつ入れ、寄主に対する定位までの時間・距離・産卵までの時間・産卵の位置について記録した。観察は最長10分まで行った。

 

[結果・考察]

・産卵消長

産卵開始日齢は、平均7.67日(n=5)であった。1日あたりの産卵数は、産卵開始後増加し、その後減少した。1日あたりの産卵数が0となった後も産卵が確認されたことより、産卵数のピークが2箇所にある可能性が示唆された。調査した個体数は十分とはいえないため、今後さらに多くの個体で観察する必要がある。

・産卵行動

雌バエは、寄主から数cm離れたところまで歩行により近づき、しばらくの間寄主の動きを追った後、産卵を試みた。その際、寄主が移動した場合は、頭部の向きを変える、歩行により後を追うなどの行動をとった。寄主に接近するまでの時間や産卵までの時間などは個体差が大きかった。

産卵を試みる際は、寄主に肢をかける(6本肢すべてをかけて「乗って」しまう場合もある)個体と、寄主の近くから産卵管を伸ばす個体とが観察された。産卵を試みなかった個体には、寄主に全く接近しなかったものと、寄主の方から接近してきたなどの原因で寄主との距離が縮まっても寄主を避ける行動をとったものの2種類があった。