つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 66     (C) 2003 筑波大学生物学類

円石藻の石灰化に関わる酸性多糖合成の解析

石原 麗子 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:白岩 善博 (筑波大学 生物科学系)


* 研究背景・目的 * 円石藻は細胞内で炭酸カルシウムを主成分とする燐片(円石)を形成し、エキソサイトーシスによって細胞外に放出し細胞表面にそれを保持しており、その形態は無機的に形成された炭酸カルシウムの結晶よりははるかに複雑な構造をしている。そのような複雑な構造はその形成に有機基質が関与することで可能になると考えられている。円石内には酸性多糖が含まれており、未だその直接的証拠は得られていないが、円石形成への関与が考えられる。また、結晶形成には様々なタンパク質が関わっていると考えられる。例えば、Ca2+HCO3などの材料供給、結晶形成のためのエネルギー供給、酸性多糖合成に関わる酵素、それらの制御因子などが挙げられる。そこで、本研究では、酸性多糖の合成パターンを調べることで、石灰化の制御要因を明らかにすることを目的とした。

* 方法 * 円石藻Emiliania huxleyiを光照射下、MA-ESM培地で静置培養し、遠心で回収、細胞の洗浄、破砕、TCA処理した後、カルバゾール硫酸法によって細胞に含まれるウロン酸量を測定した。

* 結果・考察 * カルバゾール硫酸法は本来、ウロン酸に対して赤紫色(Fig. 2左)を呈するが、細胞のcrude extractsをサンプルとすると濃緑色(Fig. 2右)を呈し、発色が妨害された。その原因を調べ、培地であるMA-ESM成分とタンパク質の混入によるものであることを明らかにした。そこで細胞を3%NaCl溶液で洗浄し、5%TCA処理をすることで細胞に含まれるウロン酸よりなる酸性多糖の定量をすることが可能となった。そこでE. huxleyiを増殖に伴う酸性多糖含量の変化を調べた(Fig. 3) その結果、酸性多糖の合成は細胞増殖に伴い増加した。細胞あたりの存在量は対数増殖期ではほぼ一定に保たれ、定常期に増加した。偏光顕微鏡観察より定常期に円石形成が促進される現象が見られ、酸性多糖の量的変化と円石形成は同様の挙動を示すということが明らかになった。