つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 57     (C) 2003 筑波大学生物学類

小脳プルキンエ細胞樹状突起の発達における生体アミンの影響

大橋 浩之 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:岡戸 信男 (筑波大学 基礎医学系)


<研究の背景>

アミン(amine)とはアンモニアの水素原子を炭化水素基で置換した化合物の総称で、生体内では種々のアミノ酸脱カルボキシル酵素の作用により,あるいはアンモニア・他のアミノ化合物・アミドと他の物質との化合によって種々のアミンを生ずる。アミンは神経に作用する生理活性の強い物質が多く、脳神経系においては主に神経伝達物質としてはたらいていることが知られている。

ノルアドレナリンは代表的な生体アミンのひとつである。プルキンエ細胞が唯一の出力である小脳皮質には、脳幹からノルアドレナリン含有線維,セロトニン含有線維が投射していることが知られている。本研究室ではセロトニンが小脳プルキンエ細胞の発達に及ぼす影響を解明してきた。しかしながら、いまだノルアドレナリンがプルキンエ細胞の発達に及ぼす影響は明らかとなっていない。このような背景を踏まえ、本研究ではプルキンエ細胞の発達におけるノルアドレナリンの作用の解明を研究目的とした。

 

 

<材料と方法>

 生後7日のWistar系ラットから小脳を取り出し、その虫部をTissue chopperによって300μmの厚さの矢状断面スライスに切り、この組織片を発生の過程の異なる前葉と後葉に分けた。各葉をCell Culture Insert内で1)コントロール培地、2)ノルアドレナリン処理群(1μM10μM100μM)に分け、4日間培養を行った。基本培地にはDMEMDulbecco’s Modified Eagle Medium)/F12を用いた。1)、2)ともはじめの2日間は胎仔ウマ20%血清培地で、後の2日間は無血清培地で行った。

 その後、プルキンエ細胞を特異的に染色する抗体(抗Calbindin-D28K抗体)を用いて免疫染色を行い、カメラルシダとNIHイメージを用いることでプルキンエ細胞の全面積と細胞体面積を測定した。さらに全面積から細胞体面積を引くことで樹状突起面積を算出し、プルキンエ細胞の樹状突起の発達に対するノルアドレナリンの影響を調べた。

 

 

<結果と考察>

 培地中におけるノルアドレナリンの安定性を確認するため、高速液体クロマトグラフィーを用いて、一定時間経過ごとに培地中のノルアドレナリン量を測定した。その結果、ノルアドレナリンは培地中での分解が早く、12時間でおよそ3分の1にまで減少してしまうことが明らかとなった。そこで、1日ごとに新しく培地を半量交換し、できるだけ培地中のノルアドレナリン濃度を保った。

 右図はコントロール培地で4日間培養した後、免疫染色した小脳プルキンエ細胞である。スケールバーは50μmである。現在のところ、まだ検体数が少なく、コントロール培地群とノルアドレナリン処理群の各面積値に大きな差は見られないが、今後、測定するプルキンエ細胞数を増やして解析し、本発表ではノルアドレナリンのプルキンエ細胞発達における影響を考察していく予定である。