加藤 幸恵 (筑波大学 生物学類 4年) 指導教官:杉田 博昭 (筑波大学 生物科学系)
目的
ヘモシアニンは節足動物及び軟体動物にみられる酸素輸送タンパク質である。しかし、節足動物と軟体動物のヘモシアニンはその一次構造から四次構造に至るまで著しく異なり、両者は異なる進化の道筋を辿ってきたと考えられる。
節足動物のヘモシアニンは、600個程度のアミノ酸からなる分子量7.5万のサブユニットを形成している。このヘモシアニンサブユニットが6量体を形成し、これらが会合して6×2、6×4、6×6量体として血液中に存在する。各サブユニットは、2つの銅原子を持ち1つの酸素分子と結合する最小の機能単位であり、共通の祖先から重複により進化してきたと考えられる。
ヘモシアニンサブユニットを種間で比較することにより、種の系統とそれに伴うヘモシアニンサブユニット遺伝子の進化の歴史が推定できると考えられる。
これまでにいくつかの節足動物のヘモシアニンサブユニットの一次構造が決定され、サブユニット間のアミノ酸配列比較が行われてきた。しかし、カニ類では今まで十分にヘモシアニンサブユニットのアミノ酸配列比較は行われていないので、短尾類のサブユニット配列が明らかになることで、カニ類、さらには甲殻類の系統関係を明らかにできると予想される。
本研究では、カニ類9種におけるサブユニットのN末端アミノ酸配列を比較し、直接の共通の祖先由来のオルソガスなサブユニットを同定し、それら全アミノ酸配列の比較を行い、種間の系統関係を調べることを目的とする。
材料と方法
材料動物及びヘモシアニンサンプルの調製
クモガニ科コワタクズガニMicippa phyilyra、ワタリガニ科ベニツケガニThalamia prymna、フタバベニツケガニThalamita
sima、オウギガニ科スベスベマンジュウガニAtergatis floridus、ヒヅメガニEriphia leavimana smithii、イボイワオオギガニEriphia
laevimana、ケブカオオギガニPilumnus vespertilio、イワガニ科イワガニPachygrapsus minutus、ヒライソガニCaetice
depressusを静岡県下田で採集した。
短尾類の血液は、甲羅が3cm以上のものは鉗脚・歩脚を切り、さらに腸域の縁を解剖用はさみで切り開き、えら又は心臓から1mlの注射器で直接採取した。3cm以下の小型のものは甲羅の上からえら又は心臓のある場所へ注射針を刺し、採取した。採取した血液はぼ等量のグリセリンを加え、-20℃で保存した。
電気泳動
Davis(1964)に従い、変性剤を含まない、Native-Page(polyacylamido
gel electrophoresis)法を用いた。ヘモシアニンサンプルを平板ゲルを用い電気泳動しサブユニットを分離した。
ヘモシアニンサブユニットの検出
ゲル中のタンパク質を0.6%クーマシーブリリアントブルー溶液(45.5%エタノール、9.2%酢酸)で15分間染色した後、脱色液(14%エタノール、7%酢酸)で脱色し検出した。
結果及び考察
十脚目短尾類(カニ類)9種のヘモシアニンを電気泳動し、@コワタクズガニ3個、Aベニツケガニ6個、Bフタバベニツケガに5個、Cスベスベマンジュウガニ4個、Dヒヅメガニ3個、Eイボイワオオギガニ5個、Fケブカオオギガニ4個、Gイワガニ3個、Hヒライソガニ3個のサブユニットに分離した。右に得られた結果を示す。なお、種名の前の数字とバンドの数字は対応している。
今後は分離したサブユニットをブロッティングし、N末端分析にかけたい。