倉前 絵美 (筑波大学 生物学類 4年) 指導教官:松本 宏 (筑波大学 応用生物化学系)
《背景》
植物は生育に必須の栄養源であるMgが欠乏すると、抗酸化酵素を誘導し、活性酸素抵抗性が増加することが明らかになっている。抗酸化酵素の1つであるアスコルビン酸ペルオキシダ−ゼ(APx)は、葉緑体(sAPx・tAPx)、サイトゾル(cAPx)、ミクロボディー(mAPx)に存在し、それぞれが別の遺伝子にコードされている。葉緑体には、ストロマ型とチラコイド型の2つのアイソザイムがあるがこれらは同じ遺伝子にコードされている。現在、これらのアイソザイムのうち、どれがMg欠乏下で誘導されるのかは明らかではない。
《目的》
本研究では、ホウレンソウのAPxについてアイソザイム毎の活性誘導を測定し、Mg欠乏下で誘導される種類を特定する。また、誘導されるアイソザイムについてノーザン解析を用いてmRNAレベルでの発現量も調べる。
《方法》
供試植物:ホウレンソウ(Spinacia oleracea)
1.
Mg欠乏下での抗酸化酵素APxの誘導の確認
Mg欠乏下で生育したホウレンソウ中のAPxの経時的な変化を測定した。
葉1gを採取し、液体窒素を用いて凍結・粉砕した。リン酸カリウム緩衝液を含む抽出緩衝液7mlを加えて磨砕・攪拌したのち、15000×gで20min遠心した。上清を粗酵素液とし、反応は30℃下において過酸化水素の添加で開始させ,アスコルビン酸の分解をA290の減少で追跡した。
2.
誘導されるAPxアイソザイムmRNA発現量の測定
ノーザンブロット法を用いて行った。
《結果・考察・今後の展開》
Mg欠乏処理後30日〜40日のホウレンソウは、無処理のものに比べてわずかではあるが高いAPx活性を示した。このことから、ホウレンソウにおいてもMg欠乏下において、顕著ではないが、APxが誘導を受けることが推定できた。
また、ノーザンブロット解析を行ったところ、Mg欠乏処理後40日のAPx発現量は全てのアイソザイムにおいてMg欠乏無処理区よりも、処理区の方がわずかに高かった。また、両処理区の差が最も大きかったのは、細胞質APxであった。このことから、Mg欠乏下において誘導されるアイソザイムは、細胞質APxであることが予想される。
今後さらに、アイソザイム毎の酵素活性の測定、およびノーザンブロットによるAPx発現の経時的変化の測定を行い、誘導されるアイソザイムを特定していく予定である。また、Mg欠乏ストレスへの応答がより顕著に見られる植物種でも検討していく予定である。