つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 85     (C) 2003 筑波大学生物学類

繊毛虫テトラヒメナにおける低分子量GTP結合タンパク質の探索

栗原 さやか (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:宮崎 淳一 (筑波大学 生物科学系)


≪導入・目的≫

低分子量GTP結合タンパク質は分子量20,000〜40,000程度のタンパク質群で、広く真核生物に存在し、保存性も高い。遺伝子発現や細胞骨格のreorganization、細胞内輸送など、多くの生命現象のシグナル経路の制御に関わっていると言われている。

細胞骨格がダイナミックに変化する細胞質分裂においては、低分子量GTP結合タンパク質サブファミリーのRhoの重要性が示唆されている。例えば、真核生物のウニ卵で、Rhoは分裂時に分裂面に局在すること、Rhoの阻害剤を細胞に注入すると細胞はくびれるが途中で分裂は止まり、元の状態に戻ることがわかっている。

しかしながら原生生物では、低分子量GTP結合タンパク質はほとんど発見されておらず、その機能も明らかになっていない。そこで、私は繊毛虫テトラヒメナにおいて低分子量GTP結合タンパク質を探索し、細胞骨格のダイナミクス、特に細胞質分裂との関わりを明らかにしようと本研究を試みた。

 

≪材料・方法≫

degenerated primerを用いたPCR法による低分子量GTP結合タンパク質遺伝子の探索

既知のRhoAコンセンサスアミノ酸配列を元に、degenerated primer(全長181残基数のうち12-18、47-53部分)を設計した。これを用いて対数増殖期のTetrahymena thermophilaから抽出したmRNAを元にRT−PCRを行った。また、Tetrahymena thermophilaゲノムDNAに対しても、前述のdegeneratedプライマーを用いてPCRを行った。さらに、Tetrahymena thermophila cDNAライブラリーをテンプレートとし、5’側のRhoA degenerated primerとcDNAの3’端に付加されているT7配列のプライマーでPCRを行った。

                      

Tetrahymena thermophila rab7によるcDNA ライブラリーのスクリーニング

   既に同定されているTetrahymena thermophilaの低分子量GTP結合タンパク質Rab7(高柳ら、BAA88954)のアミノ酸コード領域をDIGでラベルし、Tetrahymena thermophila cDNAライブラリーをスクリーニングした。プローブに対する反応性の強いプラークはrab7そのものをコードするものであると予想されるため、強いシグナルのプラークを除き、比較的弱いシグナルのプラークを単離、解析した。

 

≪結果≫

 RT-PCR、ゲノムDNAのPCRでは特異的増幅はみられなかった。一方にdegenerated primer、もう一方にT7プライマーを用いたcDNAライブラリーのPCRから、およそ700bp程度のPCR産物が得られた。そこで、PCR産物のクローニング、シークエンス解析を行ったが、得られたものクローニングベクター由来配列や低分子量GTP結合タンパク質とは関連のない配列で、PCRによる非特異的増幅産物であると考えられた。

cDNAライブラリーのrab7によるスクリーニングでは、rab7に弱くハイブリダイズする複数のプラークを単離することができた。これらのプラークからDNAを回収してシークエンス解析したところ、得られたプラークは全てrab7をコードするものだった。

 

≪考察≫

 degenerated primerを用いたPCR法では、低分子量GTP結合タンパク質をコードする配列は得られなかった。RhoAの保存性の高い部分を用いてプライマー設計したものの、テトラヒメナでは、この部分が保存されていないか、遺伝子の縮重度が高いためにとしてプライマー不適当であった可能性が考えられる。さらに別の部位でプライマー設計して、特異的増幅が見られるかどうか再検討したい。

ハイブリダイゼーション法によるcDNAのスクリーニングではRab7をコードする配列が得られた。rab7の全アミノ酸コード領域をプローブとして用いたため、Rab7に対する特異性が高すぎ、プローブと弱くハイブリダイズすると予想される他の低分子量GTP結合タンパク質由来のcDNAを検出できなかったものと考えられる。現在、低分子量GTP結合タンパク質間で比較的保存性の高いrab7の部分配列(全長の1/3程度)をプローブに用いてスクリーニングを進めているところである。

今後、引き続き、細胞質分裂に関わるといわれるRhoがテトラヒメナに存在するかどうかを明らかにしていきたい。Rhoの存在が確認できたら、テトラヒメナでの局在性や阻害剤投与などの方法によりRhoの細胞質分裂における機能について検討したい。