つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 40     (C) 2003 筑波大学生物学類

ラクダムシ亜目の発生学的研究(昆虫綱・脈翅目)

塘  研 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官: 町田 龍一郎 (筑波大学 生物科学系)


[目的]
 ラクダムシ亜目は完全変態類に属する脈翅目の1亜目である。 脈翅目は完全変態類の中でも最も原始的なグループの一つであり、昆虫類の大部分を占める 完全変態類のグラウンドプランの推定ならびに議論の定まらない高次系統・起源の考察 において、最も重要な一群である。このような系統学的議論においては、比較発生学的 アプローチがたいへん有効である。しかしこのようなアプローチにより系統学的議論を展開するにあたり 問題となるのは、脈翅目の発生学的グラウンドプランならびにそれに基づく目内の系統関係 の理解が不十分なことである。これは脈翅目の一員であるラクダムシ亜目についての研究 が少なく、特にその発生学的知見が皆無であることに起因する。
 このような状況に鑑み、 脈翅目、さらには完全変態類のグラウンドプラン・系統進化の解明を目指し、 ラクダムシ Inocellia japonica Okamoto, 1917 を用いて、ラクダムシ亜目の発生学的研究を開始した。 本研究ではその第一段階として、材料の確保、採集法や飼育法、発生学的研究法の確立を試みた。

[方法]
 5月を中心にラクダムシの採集を関東・甲信地方各地で行った。
 飼育容器には産卵床としてさまざまなものを入れ、♀に産卵させた。 得られた卵塊から毎日数卵ずつ固定して、全体染色を施し、あるいは切片とした。 固定・染色・切片法に関してはさまざまな方法を試みた。

[結果]
 採集の結果、5月に茨城県つくば市筑波大学周辺で17頭(♂3頭♀14頭)、7月に長野県真田町 筑波大学菅平高原実験センター構内で6頭(♂1頭♀5頭)、合計で23頭のラクダムシ成虫を採集することができた。 採集した個体は個別容器に分けることで共食いを防ぎ、餌として蜂蜜や市販の昆虫ゼリーを与えることで飼育 が可能になった。また、♀の飼育容器には産卵床としてアカマツ樹皮を入れることで産卵させることができた (右は卵塊写真、スケールバーは1mm)。卵期は室温でほぼ7日であった。
 固定液にはアルコール・ブアン液あるいはカルノフスキー液を、全体染色にはフェノール・チオニン液 を用いることで良好な結果が得られた。パラフィン包埋法あるいはメタクリル系樹脂包埋法により 切片とし、ヘマトキシリン・エオシン二重染色を施すことで観察に十分な試料が得られた。

[今後]
 今後はこのラクダムシを材料に、発生学的テクニックをさらに向上させた上で、 胚発生の概略を記載するなど、発生学的研究を進めていきたい。