つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 73     (C) 2003 筑波大学生物学類

メタン酸化細菌の新規遺伝子と菌株の検索

中山 裕士 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:神戸 敏明 (筑波大学 応用生物化学系)


[目的]

メタンは有機物の発酵などにより容易に得られる気体であり、また、日本近海には日本には約100年分のエネルギー資源となるメタンがメタンハイドレートという形で存在すると言われている。このため、石油や石炭に変わる天然ガスの新エネルギー源として利用が期待されている。資源の乏しい日本ではこのメタンの有効利用が必要である。メタンは気体であるため取り扱いが困難だが、これをメタノールに変えることにより取り扱いやすい液体になり、さらに官能基がつくため化学工業の原料に用いることができる。この反応は化学的には困難であるがメタン酸化細菌と呼ばれるメタンガスを生育炭素源とする細菌は、これを容易に行うことが知られている。しかし、メタン酸化細菌はメタンを唯一の炭素源とするため大量培養に時間がかかる。さらに今まで知られているメタン酸化細菌由来のメタン酸化酵素(メタンモノオキシゲナーゼ)は安定性が悪く、またその遺伝子が他の宿主で機能した例はない。そこで大腸菌のような容易に培養できる宿主でのメタンモノオキシゲナーゼ遺伝子の機能的発現を行うための基礎的研究を行った。

同時に、メタンを発酵原料として有用物質を直接生産するような系の確立をめざして、有用物質の生産能を持つメタン酸化細菌のスクリーニングを行った。メタン酸化細菌は菌内に大量のシトクロムを持つという特徴があり、生育に鉄を多く必要とする。そのため、鉄を大量に吸収できるように生分解性の金属キレート剤(siderophore)を生産している可能性があるためこれのスクリーニングを行うことにした。

                                             

[方法]

<メタンモノオキシゲナーゼ遺伝子の発現>

本研究室所有のメタン酸化細菌M株を用いて、これを発現可能な系の構築を目指した。宿主として、メタン酸化細菌とメタノール酸化細菌が遺伝子的に近いこと、宿主−ベクター系が確立されていること、組み込まれた遺伝子がメタンをメタノール変換するとメタン酸化細菌が生育することができ、ポジティブスクリーニングが可能であることをふまえ宿主にメタノール酸化細菌を選んだ。この宿主にM株由来のメタンモノオキシゲナーゼ遺伝子を導入しメタンで培養を行う。

 

siderophoreのスクリーニング>

鉄、銅、亜鉛などの金属を含まない無機塩液体培地30mlに土壌サンプルを入れ、30mlのメタンを封入し30℃で約1週間培養した。

土壌の残留物がなくなるまで上記の培養液1ml30mlの液体培地に懸濁し、メタンで培養を繰り返した。培養液を平板培地に塗布しメタンで10日ほど培養し菌を単離した。単離された菌を、CAS培地と呼ばれる培地中から金属が失われると青色から透明な色に変わる培地に植菌し、培地の色の変化を示標にして、菌のスクリーニングを行った。

 

[結果と考察]

メタンモノオキシゲナーゼ遺伝子の発現においては、宿主となるメタノール酸化細菌はNCIMBより取得したMethylobacterium extorquence AM1 Methylobacterium organophilumを用いた。本菌用のベクターとしてLidstrom博士よりMethylobacterium−大腸菌シャトルベクターであるpCM62 pCM66を頂いた。現在これらの菌株の形質転換条件を検討中である。

 

Siderophoreのスクリーニングは約50株ほど単離することができた。そのうちCAS培地において色の変化が確認できたもの6株、これを液体培地に戻しメタンで培養しメタン資化性菌であると確認できたものが1株取得できた。この菌株が実際にsiderophoreを生産しているかを確かめると共に、より多くの菌株を取得していく予定である。