つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 74     (C) 2003 筑波大学生物学類

新規ポリエステル分解酵素によるエステル型ポリウレタンの分解

藤田 智大 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:神戸 敏明 (筑波大学 応用生物化学系)


はじめに

 プラスチックは、軽くて丈夫であり、成型し易い事から様々な分野に利用されてきた。しかし、一旦廃棄物となると、その難分解性ゆえに多くの環境問題を引き起こす事になる。そこで、プラスチックを分解する微生物についての研究が注目されるようになった。プラスチックの一種であるポリウレタン(PUR)は分子内にウレタン結合(−NHCOO−)を有する高分子化合物の総称である。主にポリイソシアネートとポリオールの重付加によって得られ、ポリオールにポリエステルを用いたものは、エステル型PURと称される。Comamonas acidovorans TB-35株は固体エステル系PURを分解資化する細菌として、土壌よりスクリーニングされた。TB-35株由来のPUR分解酵素(PURエステラーゼ)を精製し、その性質を調べた結果、本酵素はPURに含まれるポリオール部位のエステル結合を切断していることが明らかとなっている。一方、当研究室において数種のポリエステル系生分解性プラスチック分解菌を取得し、その分解酵素遺伝子のクローニングを行っている。これらの分解酵素は、エステラーゼ/リパーゼであることから、エステル系PURを分解できる可能性がある。そこで、これらのポリエステル分解酵素の中から、PUR分解能を有する酵素を検索し、その分解特性を明らかにすることとした。

 

方法

 1.PUR分解反応

 ポリオールとしてポリジエチレンアジペート(pDEA)、イソシアネートとしてトルエン-2,4-ジイソシアネートを用いて作成した固体PUR(PUR-pDEA)を基質とした。0.1Mリン酸バッファー(pH7)に酵素量0.1unitの各種ポリエステル分解酵素を加え、全量を0.5mlとした。そこへ、約20mgのPURを添加し、37℃で反応を開始し、24時間後のPUR重量を測定した。

 2.分解産物の検出

 分解産物であるジエチレングリコールは、ガスクロマトグラフィーにより、アジピン酸は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。 

 3.各種PURに対する基質特異性

 ポリオール成分の異なる7種類の固体PURを基質として1と同様の方法で酵素反応を行った。反応終了後、反応溶液中の全有機炭素量(TOC)を測定した。

 

結果

1.TB13株由来のポリ乳酸分解酵素(PLAリパーゼ)に高いPUR分解活性が認められた。24時間後に24%の重量減少がみられ、反応液中に12g/lのTOCが検出された。

2.PURエステラーゼ、PLAリパーゼ共に反応液中にPURの分解産物であるジエチレングリコールとアジピン酸が検出された。PLAリパーゼについては、HPLC分析によりオリゴマーと思われる著量の未知ピークが認められた。また両酵素反応において、分解後のPUR表面の形態が異なっていた。

 3.両酵素共に、PUR-pDEA以外の各種PURの重量減少は見られなかった。しかし反応液中のTOC量がわずかに増加していた。

 

考察 TB13株由来のPLAリパーゼが、PUR分解菌由来のPURエステラーゼより高いPUR-pDEA分解活性を有している事が明らかとなった。一方、PUR-pDEA分解産物の検討を行った結果、PLAリパーゼにおいてはオリゴマーが主な分解産物であることが示され、また分解後のPUR-pDEA表面の形態が異なることから、両酵素は異なるPUR-pDEA分解様式を有している事が示唆された。ポリオール成分が異なる各種PURにたいする基質特異性を検討した結果、両酵素とも、PUR-pDEAに対してのみ極めて高い分解活性を示した。ポリオール組成の違いが、PUR分解性に大きな影響を与えるとすれば、より生分解されやすいPURの設計にとって有用な知見となり得る。今後は種々のポリオールに対する基質特異性を検討するとともに、PUR分解特性の異なる二つの酵素の性質をさらに詳細に解明していきたいと考えている。