つくば生物ジャーナル Tsukuba Journal of Biology (2003) 2, 111     (C) 2003 筑波大学生物学類

フォークヘッド型転写因子FKHRと相互作用するタンパク質の探索

宮口 靖雄 (筑波大学 生物学類 4年)  指導教官:坂本 和一 (筑波大学 生物科学系)


 

導入・目的:FKHRはヒトの横紋筋肉種(Rabdomyosarcoma)において多く変異が認められる癌抑制遺伝子の一つとして知られている。このFKHRは、フォークヘッドドメインと呼ばれる共通のDNA結合ドメインを持つ転写因子で、主に動物細胞のアポトーシスや細胞周期停止またはDNA修復などに関わる遺伝子群の転写調節に機能している。

 これまでの報告により、FKHRは、エストロゲンレセプター(ER)を始めとする様々な転写共役因子と結合することにより、タンパク質の修飾、核内への移行、転写活性の制御などが行なわれることが知られている。またFKHR自身がco-activatorco-repressorとなって他の転写因子の活性を制御しているという報告もある。このようにFKHRと相互作用するタンパク質は数多く存在し、未だ同定されていない作用タンパクも多く存在してFKHRの機能発現に重要な働きをしているものと考えられる。従って、癌抑制を始めとするFKHRの機能メカニズムを知るためには、FKHRに結合する新たな相互作用タンパク質を網羅的に探索することが必要不可欠である。

 そこで本研究では、yeasttwo-hybrid法を用い、FKHRのサブファミリーであるFKHRL1と相互作用する新規タンパク質因子の単離と同定を試みた。

 

実験:FKHRL1DNA結合領域を組み込んだbait plasmidとマウスの肝臓cDNA library (prey plasmid)YeastY190transfectionした。このYeast-H-L-W培地により選択し、生えてきたコロニーをβ-galactosidase活性を指標に解析した。さらに、青色に呈色したコロニーからplasmidを回収して大腸菌株HB101transfectionし、-L培地で選択を行なった。生えてきたコロニーからprey plasmidを回収し、塩基配列を決定した後にBlastで検索した。

 

結果・考察:これまでの実験ではマウスの肝臓cDNAlibraryから1520個の遺伝子が単離できた。しかし予想に反して転写因子や転写共役因子などをコードする遺伝子は一つも含まれなかった。これは、FKHRL1と作用タンパク質との間の結合性に原因するのかまたは実験系自身の問題であるのか、現在のところ不明である。現在、回収したprey plasmidをもう一度Yeastに入れ直し、β-gal assayの再現性を確認中である。今後これらのタンパク質がFKHRL1と本当に相互作用することが確認され次第、FKHRL1による機能発現にどのような影響を与えるか明らかにしていきたいと思う。